【症例の紹介】
肩関節は骨が接する面積が小さく安定性を欠いています。その分自由度が高く関節の脱臼を防ぐために多くの筋、腱、靭帯が関節を取り巻いています。しかし、それらに栄養を与えている血管は細く脆弱で損傷や断裂を引き起こします。五十肩と思っていて実は、腱が断裂しているケースがあります。
ケース1:腱板損傷(棘上筋断裂 新鮮例)
60歳代女性です。自宅で洗濯カゴを両手に持ち階段を上っている途中、バランスをくずし右肩を壁にぶつけ態勢を立て直そうとしました。受傷直後はただの打撲だと思われていたのですが痛みが増してきたので翌日に来院されました。
上腕骨上部前面に皮下溢血があり、自動運動では屈曲90°、外転80°でそれ以上は疼痛により不可でした。拳上姿勢は、上腕骨の求心位が取れておらず肩甲骨を拳上したトリックモーションがありました。
腱板損傷を疑いエコー画像で確認しました。
●エコーでは左画面患側の棘上筋の上peribursal fat padの扁平化があり、また筋内が白く濁り血腫の存在が疑われました。
整形外科の受診をすすめ関節内注射をしていただきました。関節内からは血腫を抜きヒアルロン酸注射をされました。
縫合手術の提案をしましたが、患者さんのご希望により保存的に施術を行いました。現在は関節拘縮も起きずROMも回復しておられます。
ケース2:腱板損傷(棘上筋断裂 陳旧例)
70歳代女性です。半年前より肩が痛く腕があげられない状態になっておられ、就寝中の夜間痛も出現しているそうです。整形外科に通院中で内服と湿布剤、物療を行っておられましたが改善が見られないということで来院されました。
ROMは屈曲100°、外転90°、大結節に限局した圧痛がありました。視診では棘上筋、棘下筋に萎縮がありました。腱板損傷を疑いエコーで画像をとりました。 エコー画像ではperibursal fat padの扁平化と骨表面にnotchが確認され腱板損傷を疑いました。また、上腕二頭筋長頭腱腱鞘部に液体貯留があり腱鞘炎の存在も確認できました。majar injuryの腱板損傷の確定診断を確認するためにMRIを総合病院でオーダーしていただきました。
●右肩甲骨上の筋(棘上筋・棘下筋)の萎縮(痩せ)が確認できます。
●peribursal fat padの扁平化や大結節に骨表面の不整列が確認できます。
●MRIでは棘上筋断裂に損傷があります。
●長頭腱(白い円)の周囲に液体(黒い楕円)が確認できます。
手術の提案をしましたが、しばらくは保存療法を続けるという患者さんのご希望で施術を行いました。損傷部位と腱鞘炎部に超音波を照射し自発痛の軽減をある程度待ってから屈曲動作の再教育(忘れた正しい動かし方を再度練習する)を行いました。4か月ほどで運動時痛もほぼ消失しROMも健側同程度まで改善しました。
(まとめ)
あきらかな受傷機転がなくても、肩が痛く運動制限のある場合は、自己判断で五十肩と決められず一度画像を撮ってみるべきではないでしょうか。
特に、高齢の腱板は軽微な外力によっても簡単に断裂するケースがよくあり、外力が働いたと意識されていない方もおられます。
レントゲンは再現性が高く、簡易な画像診断方法ですが骨以外の軟部組織の判断には不向きです。MRIは軟部組織の状態を確認するにはとても有用ですが経費と時間がかかる欠点があります。エコーは簡便に軟部組織の確認ができますが、再現性が難しく正確な画像を描出するには施術者にそれなりの技術が必要とされます。病態を正確に判断するには、施術者が描出技術の習得を十分に訓練しこれらの画像診断方法を症状により上手く選択し施術に生かせれば素晴らしいと思います。