【症例の紹介】
骨端症って聞きなれない言葉です。成長痛などの呼び方の方が一般的かもしれません。しかし、成長痛と言うと少し誤解を生んでしまうように思います。
骨端とは成長期には成長軟骨が存在しますがそれよりも端の部分の事を言います。この部位には靭帯や腱が付着しておりそれらに引っ張られることにより骨が隆起したり剥がされた状態になります。病名にはオスグッド病やシーバー病など人名が用いられます。
●膝のレントゲン映像です。関節とは別に骨の間に黒い隙間が見えます。これが成長軟骨板です。成長軟骨板より関節側を骨端、反対側を骨幹と呼びます。
骨端症は骨端に何らかの器質的変性が起こった状態を言います。
ケース1: オスグッド病(Osgood Schlutter D)脛骨粗面骨端症
数多くのジュニアスポーツ選手のオスグッド病を経験しました。サッカー、バスケットボール、バレーボール、バドミントン、野球、体操、競泳などの選手が男女問わずこのケガを訴えていました。原因は①競技特性、②太腿前の筋の硬さ、③家系性などが考えられます。
①競技特性から発症動作を考察すると、ダッシュやジャンプで地面に足を強く踏み切ったり、ストップ動作の1歩目の足に多く発症しています。
②成長期はおよそ3年間続きます。この時期をPGA(Peek Growth Age)と呼び、1年間で10cm弱ほど身長が伸び、特に、長管骨(手・足の長い骨)が伸びます。骨に対して筋の発達は遅く、骨の伸びに追いつけなく筋の付着部を引っ張ってしまい骨端にダメージを与えてしまいます。
③研究文献などで詳しく書いてはいないのですが、家系性による発症率の差はあるように思います。
発生部位は脛骨粗面です。この部分が膝蓋腱の牽引により前方へ突出したり、時には遊離し骨片になります。
発症は成長期の過程と関係があり成長軟骨の形態でエピフィーゼス期と呼ばれる時期に多く発症します。
●左図:オスグッド病の発症部位です
●右図:脛骨近位の成長軟骨の変移です。左から軟骨期→アポフィーゼス期→エピフィーゼス期→骨期と成長に伴って変移します。鳥のクチバシの様な形をしている時期がエピフィーゼス期です。
●中学2年生、男子、硬式野球選手です。
●画面左の脛骨粗面が腱の牽引により右(健側)より前に引き出されています。
●小学6年生、女子、体操選手です。
●画面左:健側、画面右:脛骨粗面に隆起が見られ骨の不整列が確認できます。
これらの選手も成長期が終わり骨期に入れば自然と痛みが消失していきます、しかし中には骨片が遊離し骨期になっても持続して痛みを訴えるケースもあります。そのような場合は骨端だけでなく腱に部分断裂や石灰沈着が確認される事もあります。成長期中は太腿前面の筋の柔軟性の向上を目的としたストレッチングや、痛みの酷い時は非荷重のトレーニングを実施します。また、エピフィーゼス期はスキャモンの発育曲線では臓器発達が顕著な時期でスタミナトレーニング(酸素摂取量の向上)を中心にトレーニングプログラムを作成します。
ケース2: SLJ病(Sinding Larsen Jhohanson D)膝蓋骨下端骨端症
SLJ病とは膝のお皿の骨の下端にある骨端症です。発生はオスグッド病と似ています。私的考察ではバドミントン選手の利き足に多いように思います。
SLJ病はお皿(膝蓋骨)の骨端症ですが同時に膝蓋腱の近位にも限局した圧痛があり腱の不全断裂や微少外傷による炎症も同時に発症している炎症があります。成長期を過ぎ骨端が骨化した後も似たような症状が続くのはそのためかもしれません。
また、SLJ病はそのような症状からジャンパー膝(膝蓋腱炎)と間違われることもありますので画像により鑑別しなければいけません。
●中学3年生、女子、バドミントン選手です。
●画面左に膝蓋骨がありその上面を覆うように膝蓋腱があります。お皿の下端(画面中央)に裂離した骨片があります。また膝蓋腱も肥厚化し炎症が確認できます。
●高校2年生、女子、バドミントン選手です。
●画面左(患側):お皿の下端がとんがった状態で骨化しています。
●画面右(健側):患側との比較でお皿を覆っている腱の厚みの違いを確認できます。
対応はオスグッド病と同じです。オスグッド病の発生と比較すると、SLJ病は膝への衝撃が加わわる際に、膝関節がより曲がっている場合に多く発症していると印象があります。バドミントンでは前のシャトルを拾いに行った際にランジ動作でそのような動作を強いられます。その際に足を手前についてしまうと膝がより曲がってしますので注意する必要があります。
●左図:後ろ足が地面をとらえていない為に加速がつかず、前の膝が曲がり上体が突っ込んだ態勢になっている。
●右図:後ろ足で地面をとらえ上体を安定させると前の膝は大きく曲がらない。膝の屈曲角度は理想では130°前後と言われています。
ケース3: シーバー病(Sever D, 踵骨骨端症)
ジュニア期のサッカー選手に好発します。踵の後ろからやや側面に限局した圧痛があります。アキレス腱炎や付着部症、pump bump、足底腱膜炎、踵脂肪褥炎などとの鑑別が必要です。
エコー画像ではアキレス腱炎やpump bump(滑液包炎)との鑑別は可能ですがその他は問診により鑑別していきます。
●アキレス腱と足底腱膜に挟まれている踵骨の後ろ端が骨端です。シーバー病の発症部位です。
●踵と画面上部の白い線筋がアキレス腱です。骨の表面に黒くくぼんで見えるのが成長軟骨です。
●画面左(患側):アキレス腱の付着部の骨端が隆起しています。
●画面右(健側):正常の骨端の様子です。
骨端線が閉鎖するまでの間は予防的に経過観察します。予防方法の1つが、下腿筋群の柔軟性の獲得です。アキレス腱で終わる下腿の筋は下腿三頭筋と呼ばれ3つの筋から成り立ちます。1つはヒラメ筋、残りが腓腹筋です。ヒラメ筋は膝関節をまたがずアキレス腱で停止し、腓腹筋は膝関節の上から始まるアキレス腱で終わっています。
下腿三頭筋の柔軟性を獲得するには、2種類のストレッチングを行う必要があります。膝を伸ばしてアキレス腱を伸ばす方法と膝を曲げてアキレス腱を伸ばす方法です。そのほかでは用具(ヒールカップ)を使用し踵を持ち上げてアキレス腱への負担を軽減します。
●シューズの踵に挿入します。補高の目的と衝撃を吸収します。
離断性骨軟骨炎(OCD)はジュニア期に発症する特有のスポーツ障害です。足首・膝・肘に多く発生します。病名から骨が離断する(ちぎれる)と想像してしまいますが、実際は、軟骨下骨が血流の阻害により無腐性壊死し脱落する状態です。
競技別ではサッカーやバスケットボールのように膝を曲げた状態からの急激なSTOP & GOやカッティング動作で受傷します。投球動作のあるラケット競技や野球では肘の外側の骨に発症します。
症状は特徴的で
①受傷機転がない、
②日常生活ではほとんど痛みがでない、
③プレー中の激しい動きの際にだけ痛みがでる、
④押さえても痛くない、腫れてもいない
などです。
小学高学年から中学前期に多く発症しますが、筋力が未発達なので痛みは強く現れません、中学後期から高校以降に筋力の発達に伴って痛みが増してきます。その時点で初めて医療機関を受診されるケースが多く、病態がすでに進行しているので、ほとんど手術の適用になっていまいます。
早期発見で手術を回避できる事もありますので上記の様な症状がある場合は、できるだけ早く医療機関にかかる事をおすすめします。しかしOCDはレントゲンでは見つけにくい場合もあります、できればMRIで確定診断を受けられる方がいいのではないかと思います。
ケース1: 大腿骨内顆離断性骨軟骨炎
高校1年生男子バスケットボール選手です。新1年生の入部時スクリーニングで膝の痛みを訴えていました。問診票では有痛性分裂膝蓋骨と申告されていたのですが、疼痛部と合致しなかったので徒手検査とエコー検査をおこないました。
徒手検査では所見はありませんでした。ROM検査では非荷重での伸展・屈曲とも問題ありませんでしたが、荷重位では屈曲130°で痛みが大腿骨内顆に出現しました。エコーでは内側の膝蓋-大腿関節の軟骨・下骨に連続性の不整列が確認できました。
OCDを疑い総合病院にて受診しOCDの確定診断を受け今後の対応を顧問の先生と協議しました。
●膝を曲げ関節軟骨が露出した状態でエコーをとりました。
●画面中央の黒い部分が軟骨です。表面のきれいなカーブがなくなっています。また、その下の白い線の下骨の表面も不整列が確認できます。
●膝を曲げた状態で膝蓋‐大腿関節を撮影しました。
●エコー画像で画面左の軟骨(黒色)と下骨(白色)の不整列が確認できます。
●MRI画像です。画面左が矢状断(前後に切った)、右が前額断(左右に切った)映像です。
●内顆の関節面に下骨の欠損が確認できます。
ケース2:大腿骨内顆離断性骨軟骨炎
中学1年男子サッカー選手です。日常では痛みがないのですがサッカーをすると膝に痛みが現れるという事で来院されました。症状が上記に合致したので、徒手検査で他のケガの可能性を除いておいてエコーをとりました。
●図左:画面左(健側)の関節軟骨と画面右(患側)です。患側の軟骨と下骨が損傷しているのがわかります。
●図右:患側の拡大した映像です。
病態と予後の説明をご両親にさせていただきました。最初はとまどっておられましたが、理解していただき総合病院で診察および手術をされました。
結果的に手術が必要となりましたが、早期の発見だったので低侵襲な方法を選択することができました。
●手術後4か月のエコーです。軟骨と下骨がきれいに再生されています。
ケース3:上腕骨小頭離断性骨軟骨炎
高校1年女子バドミントン選手です。日常では痛みがないのですが、新入生スクリーニングにで肘関節の屈曲が健側と比較して−5°、伸展が-5°であったので精査しました。
既往歴には、肘関節のケガは未記入だったのでが、問診をすると中学の頃に、たびたび肘が腫れてはアイシングをしていたということでした。
エコーでは、肘関節屈曲位・伸展位とも小頭の軟骨下骨に何かしらの損傷が確認され、ROMの低下があったので医療機関にて精査していただきました。
●屈曲位での上腕骨小頭のエコー画像。 ●伸展位でのエコー画像。
●両映像とも小頭に軟骨下骨の損傷が確認できます。
●患側(左)と健側(右)の比較です。
●CTでは小頭と肘頭にも遊離した骨片が確認されました。
●診断は、OCD(遊離期)でした。
大会の時期を考慮し、遊離した骨片を取り除く手術を行っていただきました。
●関節鏡の進入路は4か所でした。術後で浮腫などがありましたが、すぐに軽快しました。
遊離した骨片を取り除くだけの手術だったので、1か月後の試合には出場できるように準備しました。
術後2週間で、屈曲は-10°程残りましたが、伸展は+5°まで回復し、握力も術前とほぼ同程度まで回復しました。なんとか無事に試合に出場を果たしました。
病態や手術方法の違いにより経過が異なりますので、担当医とよく相談をして下さい。
ジュニア期の捻挫や骨折は成人のとは異なった症状や予後になる場合が多いので慎重に対応する必要があります。
ジュニア期の身体的特徴は
①骨化が十分になされていない
②個で成長年齢が異なる
③筋が未発達の間は痛みが少ないが、筋の発達に伴い痛みを訴える
事がある
などです。
捻挫と骨折
捻挫は、関節が外力により生理的可動域をこえて強制的に関節運動を強いられ、その際に関節を保護している靭帯を損傷してしまうケガの事です。
しかしジュニア期の関節に近い骨は柔らかく靭帯の牽引に負けてしまいます。その結果、靭帯損傷ではなく骨折をしているケースがあります。
受傷時の痛みも成人ほど強くなく、また腫れや皮下溢血もほとんどないのでそのまま放置される事が多いようです。
しかし、高校生以上で筋力が発達してくると、関節に大きな力がかかる様になり不安定性や痛みを訴えるケースがあります。
私は、トレーナーとして高校生女子バドミントンチームや男子バスケットボールチームにかかわっており、新入部員のメディカルチェックをする際に、必ず足関節外側靭帯の状態を確認するようにしています。
結果、かなりの頻度で足の外くるぶし(腓骨外果)に骨折をした痕跡を見つける事があります。
●高校女子バドミントン選手です。足関節の不安定性を訴えていました。
●外果の先端が分離している様子が確認できます。
●別の選手の外果です。画面左が患側です。靭帯の牽引によって外果の先端が欠けています。
この様なケースでは、突然の痛みや腫れを選手が訴えてくることが少なくありません。
試合期であれば、本番のパフォーマンスに影響が出ますので痛みがなくともブレースを着用し、足関節の保護に努めるように指導します。
●シグマックス社製のブレースです。その他、ZAMSTもよる利用します。
バドミントン選手は、テーピングやサポーターの着用を嫌がることがあるので、ぶっつけ本番で使用しないで事前より着用させて慣れさせることも必要です。
肉離れと裂離骨折
◆座骨結節の裂離骨折
●坐骨結節の裂離骨折です。太腿の後面の筋群の牽引により骨端が剥がされた状態になり骨折しています。成人では肉離れが好発する部位です。
座骨結節は大腿後面の筋群(ハムストリングス:半腱様筋と大腿2頭筋)が付着する骨起始です。
高校1年生女子バドミントン選手です。ランジをした際におしりの付け根が痛くなったと訴えてきました。肉離れのようにも思いましたが年齢を考慮し骨折を疑いレントゲンをオーダーしました。
◆下前腸骨棘の裂離骨折
●上記のエコー像は、左が患側、右が健側です。一見右の映像の方が骨の不整列があるように思われますが、成長軟骨の映り具合がアーチファクトとなりバラバラになっているように見えます。
●左の映像が縦に線が明瞭に確認できるのが骨折線です。
AIIS(下前腸骨棘)は、大腿直筋が付着する骨起始です。
中学2年生の男子サッカー選手です。相手選手と交錯し左足を後方へ取られたそうです。
股関節が痛むと来院されましたが。股関節の内外旋障害はなく。自動SLRで痛みが誘発しました。
圧痛がAIIS(下前踵骨棘)に限局していたので、筋腱移行部の損傷か裂離骨折を疑いエコーを施行しました。
●示しているのがAIISです。 ●エコーでAIISを長軸方向に撮影しました。
●受傷後1か月のエコー画像です。骨折部にリモデリングによる仮骨形成が確認できます。
若年型の骨折
◆Colles骨折と橈骨遠位端骨端線離開
ジュニア期の骨折の特徴は、骨が柔らかいために完全にポキッと折れないで若木骨折になるケースと、骨には傷がなく成長線が離解するように折れるケースがあります。
●橈骨遠位端骨端線離解です。成人ではコーレス骨折と呼ばれます。
●左図:画面左の骨の先端がやや下に脱落しています。この骨と長い骨の間に見える黒い隙間が成長線(軟骨)になります。
●成人のコーレス骨折です。完全に折れている様子がわかります。
この様に小児の骨折は外観では大きな変形がなく、治癒期間も早期(成人の半分)なために軽く考えがちですが成長線の損傷(骨折)は、後の成長障害の原因になりますので慎重に対応すべきです。
◆尺骨脱臼骨折と成長軟骨に及んだ骨折
同様に成長軟骨を横断しながら折れるSalter-Harrisの分類にも注意が必要です。
●12歳女子体操選手の肘関節後方脱臼骨折のレントゲン像です。
●バーより落下し左手をついて受傷。
●左図:健側の肘関節レントゲン正面像です。
●右図:整復後の患側のレントゲン正面像です。外側上顆から成長軟骨を縦断するように走る骨折線が確認できます。
成長軟骨を縦断または、横断する形での成長期前特有の骨折をSalter-Harrisと呼び、他の骨折とは区別して考えます。
将来、骨の成長障害の原因になるため、整復や固定は伸長を期します。これらの骨折の疑いがある場合は、必ず医療機関にて処置をしていただいております。