【症例の紹介】
膝が痛くなりレントゲンを撮ると膝の関節軟骨が減っていると言われたと相談をよく受けます。一度減った軟骨は元に戻らないのか?とも。
体の中には軟骨が3種類あります(成長軟骨板は別として)。1つは線維軟骨といい比較的頑丈で弾力があり骨どうしの連結する働きをしています。椎間板や恥骨結合がそれです。2つ目は弾性軟骨といいゴムのようにとても弾力に富んでいます。耳介や気管の周りを覆っています。そして3つ目が硝子軟骨です。いわゆる軟骨と呼ばれていて関節を構成しています。摩擦係数がアイススケートの1/100とも言われています。
どの軟骨にも成人以降は血管の進入がなく傷がついても再生する力がありません。しかし、骨や筋などは再生する力がありますが再生した部位は傷がつく以前よりも太く硬く(線維化と言います)なります。もし、軟骨にこの様な事が起きると軟骨はボコボコになってしまい余計に滑りにくくなってしまいます。再生せずにすり減ったままの方が都合がいい場合もあります。
脚の見た目がO脚になっているから変形性と思われがちですが、病名での変形性とは軟骨がすり減っていたり骨棘が形成されていたりと皮膚の外からでは判断できないものをいいます。40歳代を過ぎるとどなたも少なからず軟骨がすり減り骨棘が形成されます。レントゲンを見れば皆さん変形性〇〇関節症になります。
では痛みと軟骨の摩耗が関係しているのでしょうか?答えは「微妙です」としか言えません。軟骨には血管の進入がありません、すなわち神経が通っていないのです。だから痛みも感じないのです。軟骨がすごく摩耗して軟骨下骨がむき出しになり直接ぶつかると痛むのでしょうが、そのような人は本当に稀です。エコーで観察するとほとんどの方は2㎜ほどの厚みを確認できます。
何故痛むのか?明確な答えは難しく、人により痛む箇所もまちまちで腱であったり筋であったりまた滑膜であったりという風です。やはり問診や徒手検査、画像などで総合的に判断するべきではないでしょうか。
●60歳代の女性です。レントゲンでは内側の関節の隙間が外側よりも狭くなっています。典型的な変形性膝関節症の方の画像です。軟骨はレントゲンには写らないので軟骨が多くあるところは黒く浮いているように見え、少ないところは狭く見えます。ちなみに関節リウマチの膝の映像は内も外も狭く写ります。
エコーでは関節軟骨は以下のように描出されます。
●左:大腿骨内側顆の関節面 右:膝蓋大腿関節の関節面の描出方法
●30歳代男性の膝関節のエコー画像です。
●右図:白く丸く大腿骨の周りに黒く縁取るように見えるのが関節軟骨です。●左図:波打つように白く見えるのが骨でその上の黒い縁取りが関節軟骨です。
●80歳代女性の膝関節のエコー画像です。
●30歳代のそれと比較すると軟骨・軟骨下骨が摩耗しています。右図の膝蓋大腿関節も同様です、また画面左には骨棘の形成が確認できます。
上図の80歳代女性が来院当初は膝の痛みがひどく100°程度しか曲げられなかったのですが、現在は痛みもなく正座ができるまでに回復されています。しかし、完全な伸展は困難で-5°ほど曲がったままです。膝関節のADLについては曲げられる方が日常生活には困らないのですが、立位や歩行では完全伸展できる事が重要です。今後は膝蓋腱下脂肪体が滑らかに動かせるように施術を継続していきたいと思っています。
膝に水が溜まって痛いと訴える患者さんが多く来院されます。そういった患者さんは水を抜くとクセになるから抜かないと言われます。水が溜まるのは症状であって原因ではありません。何かの原因でその結果水が溜まっているのです。水を抜いてもすぐに溜まるのは原因が解決されていないからです。
何故、水が溜まるのでしょうか?一言でいえば関節内に炎症があるからです。
炎症と言っても原因はさまざまです。関節内に細菌が繁殖して水が溜まる感染性関節炎は、小児に多く発生し微熱を伴います。早期の対処をしなければ重篤な状態に陥ることもあります。関節水腫の糖度を調べると血糖と比較し関節水腫の糖度が著しく低い場合は細菌の繁殖を疑います。
老化が原因で起こる関節水腫には偽通風があります。関節内にピロリン酸カルシウムが蓄積しそれが何かの拍子に関節内に拡散し、拡散したピロリン酸カルシウムを免疫が攻撃し炎症を引き起こします。痛風も同様のメカニズムで発症します。痛風は尿酸結晶が関節内に拡散します。痛風は男性に多く小さい関節に多く発症すると言われていますが偽通風は肘や膝などの比較的大きな関節に発症します。関節水腫の検査でピロリン酸カルシウムが検出されれば偽通風の疑いが高まります、また血液検査で尿酸値が高ければ痛風の疑いがあります。これらの関節炎の特徴は、発赤・熱感・浮腫・自発痛です。赤くはれ上がり、触れると熱を感じ、就寝中に痛みが増すようであればとても疑わしいです。
関節リウマチもまた関節内水腫の原因になります。膠原病のひとつで女性に多く対側、2関節以上の関節に同時に発症します。私が経験した患者さんは、水腫を抜いてもすぐに同量溜まり、引いたと思うと反対側の関節に再び溜まるという具合でした。整形外科では変形性との診断でしたが血液検査をしていただき関節リウマチの診断を頂きました。その後は専門医にかかられ状態が寛解しておられます。
ぶつけたや転んだなどの外傷がなく、また上記の様な原因がないにも関わらず水腫が発症するのは何が原因なのでしょうか。私は、滑膜炎ではないかと思っています。滑膜とは関節を覆っている関節包の内側の膜で滑らかで関節運動をスムーズに行えるように補助しています。
●膝の内側から見た模式図です。骨(Femur)と骨(Tibia)の間やお皿(Patella)の裏側にある赤い袋状のものが滑膜です。Swellingとは腫脹と言う意味です。水が溜まると滑膜が伸びお皿の上がブヨブヨしたりカンカンした状態で膨れます。
この滑膜が年齢とともに滑らかな表面にヒダヒダが形成され摩擦を起こしやすくなります。また、滑膜には免疫をつかさどる細胞が多く存在し炎症を起こすと素早く反応します。炎症が起こるとタンパク質濃度が高くなり浸透圧を調節するために体液を多く循環させ濃度を調和させます。そのために関節内に水が溜まります。炎症が引くと水は自然と吸収され元の状態に戻ります。
●ピンク色の滑膜にヒダが形成されている模式図です。
ケース1:関節水腫(滑膜炎ではないかと疑われたケース)
70歳代女性です。山登りの3日後に太腿前に張りを感じ来院されました。
視診ではお皿の上にぼんやりとした膨らみがあり皺がなくなっておられました。発赤・熱感はありませんでした。徒手検査で前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靭帯、半月板損傷の可能性を消去しエコー画像を確認しました。
エコーでは関節内に液体が確認できました。
●画面右上にお皿の上端があり、画面中央に大腿骨が白い線で見えます。その上に黒い塊で描出されているのが関節水腫です。
山登りで膝の曲げ伸ばしを繰り返したことにより滑膜のヒダが互いに擦れ合い炎症が起きたのではないかと推測しました。施術は膝蓋上嚢に超音波を照射し消炎させ、お皿を誘導的に動かし膝蓋大腿関節の滑らかな動きを獲得するようにしました。およそ1か月ほどで水腫が消失し、現在は関節可動域も100%回復しました。
その他:ベーカー嚢胞
ベーカー嚢胞は膝の裏に溜まる水のことで半腱様筋と腓腹筋の間にある滑液包が前にある膝蓋上嚢と交通しているためにおこる状態と考えられています。特に、気にする事はないのですが関節リウマチによる水腫との鑑別が必要になります。不自由さを感じた場合は、整形外科で水を抜かれる患者さんもおられます。
●膝の裏、内側を描出しています。
●丸く黒く描出されているのがベーカー嚢胞です。画面右に三角形をした腓腹筋が見えその上には半腱様筋が薄く見えています。
転倒などをした際に膝を地面に打ち付けてしまい膝がしらを痛めてしまう事があります。打撲と思いがちですが、膝のお皿が骨折している事が稀にあります。
お皿は太腿の前面の筋と膝蓋腱を上下につなぐ分厚い腱膜で覆われていて骨折をしていても骨片が大きく遊離する事は少なく、よほど大きな外力が加わらない限り発生しないです。
徒手検査ではDreyer's Testを行いますが信頼性の高いテストではなく、やはり画像による診断が第1選択となります。当院でもエコーによる確認をしますが確定診断には整形外科にてレントゲンをとられることをおすすめします。
ただ、よく似た映像に分裂膝蓋骨があり鑑別が必要です。分裂膝蓋骨は生まれつきの過剰骨や融合せずに遊離した骨片が存在した状態です。この器質的な状態は変わらず痛みが発生すると有痛性分裂膝蓋骨と呼ばれます。特に、思春期の男子が外側上部に痛みを訴える事が多いです。
分裂膝蓋骨は両側に存在することが多いので、反対側との比較も大切です。
例えば
膝をぶつけた
↓
レントゲンを片側だけとった
↓
骨片があった
↓
骨折してる
(でも実は、過剰骨だった)
なんてならないように反対側も観察対象にするべきだと思います。
●膝蓋骨骨折のエコー画像です。お皿の表面に亀裂が確認できます。
また、その上(皮下)に黒く出血による血腫と白くモヤモヤした浮腫があります。
●私的考察ですが骨折の場合、この様な血腫と浮腫がセットである事が多いと思います。
●分裂膝蓋骨のエコー画像です。両側にお皿の表面に分離した映像が確認できますが、ゴツゴツしたように見え骨折線ないことがわかります。
●骨の表面皮下組織には皮下溢血や浮腫の存在はありません。
肉離れは、関節運動による筋の伸展と自動運動による筋の収縮にラグ(ズレ)が生じ筋や筋膜が裂けるように傷ついた状態です。
肉離れの生じる部位による様々なタイプがあります。
①筋膜が裂けるように傷つくタイプ
②筋内腱と筋線維が裂けるように傷つくタイプ
③腱から筋への移行部が裂けるように傷つくタイプ
などが代表的なタイプです。
筋挫傷は介達外力による外傷なので、どの筋のどの部位に好発するかがは定型的です。
大腿前面の筋群は主に股関節の屈曲(大腿を前に持ち上げる)と膝関節の伸展(膝を伸ばす)に作用します。
筋は、一つの関節をまたいでそれぞれの骨に付着する単関節筋と二つ以上の関節をまたいでいる多関節筋に分類されます。
大腿前面の主な筋では、大腿四頭筋がありその名の通り4つの筋頭を持っています。
①大腿直筋、②内側広筋、③中間広筋、④外側広筋がそれで、①大腿直筋だけが股関節と膝関節をまたぐ多関節筋で、それ以外の3筋は膝関節のみをまたぐ単関節筋です。
また、縫工筋は多関節筋に分類されます。
●大腿四頭筋の分類
●縫工筋(青色で図示)
ランニングやランジなどの動作で好発するこのケガは、股関節が屈曲位で近位(心臓に近い方)の筋が収縮しているにも関わらず膝関節は屈曲位で遠位(心臓に遠い方)の筋は伸展しており、一つの筋ないで近位の筋線維(股関節の付近)と遠位の筋線維(膝関節付近)に収縮と伸展のラグが発生し受傷機転となります。
●同一の筋内で収縮と伸展という相反する働きが起きる。
①筋膜が裂けるように傷つくタイプ
高校女子バドミントン選手です。前方向にシャトルを追いかけてランジ動作を踏ん張った際に受傷しました。
画像はありませんが、大腿外側の前面に皮下出血が確認され、圧痛、動作痛が著明でした。
エコー画像では、外側広筋と直筋との間の筋膜に血腫がありました。
●左図:短軸像 筋膜の間に黒く低輝度に見える出血が確認できます。
●右図:長軸像 同様に筋膜間に黒く出血が確認できます。
●およそ1か月で血腫が消失しました。
②筋内腱と筋線維が裂けるように傷つくタイプ
高校男子サッカー選手です。ダッシュ練習を行っている最中に徐々に大腿の外側に痛みが発生し、その後強くボールを蹴った際に歩けないほどの激痛が出現しました。
●左大腿外側に局所的な膨隆が確認できます。皮下出血はなく圧痛と動作痛が著明でした。
●左図:短軸像 筋の中には無数の小さな腱が存在します(筋内腱)。エコーでは、筋内腱と筋の間に、黒く低輝度の出血が確認できます。
●右図:長軸像 短軸像と同様に筋内に黒く出血が確認できます。
当選手は、試合期のために完全に休養をとることができずテーピングによる圧迫でプレーを続けました。
2か月の間、軽微な再発を繰り返しながらもどうにか試合にも出場しました。現在は、完治しています。
③腱から筋への移行部が裂けるように傷つくタイプ高校生女子バドミントン選手です。サイドへのランジで股関節の付け根が痛くなったと訴えてきました。
下前腸骨棘(AIIS)に限局した痛みがあり、仰向けの状態での股関節屈曲動作(SLR)が痛みの為に不可能でした。
裂離骨折との鑑別のためにエコー画像を取りました。
骨折はなく、筋挫傷による出血を疑う画像が確認できました。
●左図:短軸像 大腿直筋の腱から筋への移行部に限局した低輝度なエコー像があり出血が疑われました。
●右図:長軸像 同様に黒く見える部位に出血が疑われました。
3週間程度のアスリハプログラムで、競技復帰を果たしました。ランジ動作の改善を促しました。詳しくは股関節節の痛み(FAI)のページで詳しく書きます。
テーピングの方法はテーピングの項で紹介しています。