【症例の紹介】
手や指が痺れるのは、痺れの部位を支配している神経に何らかの問題が発生しているからです。症状としての痺れは、痛み(神経痛)とは分けて考えなければいけません。
神経には、中枢神経と末梢神経に分類されます。
中枢神経は、脳と脊髄です。
末梢神経は、脊髄の各分節から伸びる感覚神経・運動神経・自律神経(交感神経・副交感神経)です。
また、神経症状は、①知覚鈍麻(知覚麻痺)②異常知覚(痺れ・冷感など)③運動麻痺(筋力低下)④炎症(神経痛)があります。
中枢神経に起因する症状の特徴は、①・②・③で、④の神経痛を伴いません。
また、末梢神経に起因する症状の特徴は、①~④のどれか一つか複数です。
まず、①~④のいずれかの症状があった場合は、原因が中枢神経か末梢神経かの鑑別が必要です。中枢神経に起因する代表的な疾患は、脳卒中です。脳卒中は、脳溢血(出血)・脳梗塞(ラクナ梗塞を含む)・くも膜下出血です。出血性の疾患は、神経症状とともに激しい頭痛を伴います。
脳梗塞の簡易検査には様々な方法があります。中でもBarre sign(バレー徴候)は、簡易で有用です。目を閉じて、手のひらを上に向け両手を体の前に30秒ほど突き出します。手が下がって来たら陽性です。その他には、FAST(Face・Arms・Speech・Time)などが有名です。
その他の、中枢神経に起因する疾患では、脊髄損傷や後縦靭帯骨化症(OPLL)、黄色靭帯骨化症(YOLL)などがあります。いずれも、MRIやCT,レントゲンで確定診断されるのでまず医療機関にて精査する必要があります。
また、心臓病、血管炎、自己免疫疾患や糖尿病などで起こる神経症状もあるので注意が必要です。
末梢神経が原因で起こる原因として、椎間板ヘルニアがあります。椎骨の間にある椎間板の髄核が後方へ飛び出して末梢神経の根っこ(神経根)圧迫し症状が現れます。第5頸椎~第1胸椎の間から出てくる神経をまとめて腕神経叢と呼び、それぞれの分節により支配する領域が異なります。症状は、①~④のどれか一つか複数が出現し、中にはひどく痛みを伴う場合もあります。たいてい頭の位置や首の動かす方向で痛みや症状が憎悪したり軽減したりします。椎間板ヘルニアは、MRIにより鑑別されるのでまず医療機関にて精査する必要があります。
このページでは、これら以外の末梢神経由来の症状について書いていきたいと思います。
バドミントン選手が、ラケットを持たない方の手に痺れを訴えてくることがあります。
特に、女子選手が前腕(肘関節より遠位)の外側(親指側)に症状を訴えてきます。
もちろん神経症状が出現した場合、脳・脊髄の中枢神経や頸椎椎間板ヘルニアなど深刻な疾患がないかを鑑別する必要があります。これらを鑑別するには、現場で行うことができる検査方法(Barre's sign, Jackson testなど)もありますが、やはりMRIなどの画像による判断が確実です。
画像診断で重篤な疾患がないと判断され、前腕に神経症状があるケースについて書いていきます。
バドミントンで前方向のシャトルをボレーする際、男子選手と女子選手では非利き腕の使い方に大きな違いがあります。
●男子選手は左手(非利き腕)を使わず、前のシャトルをボレーする。
●女子選手は、左手(非利き腕)でバランスをとりながら、前のシャトルをボレーすることが多い。
上記の写真は、実業団男子選手と高校生女子選手にフォア前のボレー姿勢を模式的にとってもらったものです。
男子選手は、上肢の筋力が発達しているためか、全身を使ってボレーをせず、女子選手と比べると簡略化したような姿勢で補球しています。
その際、特に、左手(非利き腕)の使い方に違いが出てきます。男子選手は、腕を体側につけたような姿勢で利き腕だけで補球し、女子選手は後方に腕を伸ばし体全体を使って補球をします。
腕や背中に分布している神経は中・下位の頸椎から出ている腕神経叢です。頸椎から鎖骨下を通り肩口から背や胸、腕の前や後ろに延びてきます。また、それぞれの神経は、すべて支配領域が決まっています。
そのため選手が症状を訴える領域でどの神経に問題が発生しているのかを予測できることができます。
今回のケースでは前腕の外側に症状が出現しましたので、筋皮神経に問題が発生していると予想できます。
●筋皮神経の皮膚支配領域は前腕の外側になり指は含まれないです。
●筋皮神経の筋枝は上腕2頭筋の運動に作用し、皮枝は前腕外側の皮膚感覚を支配します。
筋皮神経が筋によって絞扼される姿勢は、肩関節の伸展動作(腕を後ろに伸ばした姿勢、肘関節の屈曲か伸展かはあまり問題になりません)です。
この動作に頸部の反対側への回旋が加わると神経がさらに伸展され症状を悪化させます。
これらの姿勢・動作はまさに女子選手がフォア前のシャトルの捕球動作と合致します。
予防対策としては、こういった動作をしない様にすることです。また、ランジ動作を行う際に寛骨(骨盤の骨)に対して大腿骨が開くように心掛けることが大切です。詳しい説明は、FAI(股関節の痛み)の項で説明したいと思います。
足の甲(足背)に突然の痛みと腫れが現れ、歩くことすらできなくなるほどの激痛を伴う。
痛みは舟状骨周囲が強く、腫れは赤く熱を持っているようだ。
この様な症状で第一に疑うのは疲労骨折です。疲労骨折の確定診断はレントゲンやMRIの画像診断で行います。しかし、骨折がないにも関わらず痛みを訴えるケースがあります。
このページでは、疲労骨折の可能性が画像診断で除外された前提で痛みや神経症状がある場合について話をすすめていきます。
足背側には、足趾を持ち上げたり足首を持ち上げたりする腱が存在します。それらの腱が浮き上がらないようにベルト状の靭帯(伸筋支帯)のようなもので押さえられています。その様な限られたとても狭い空間(管)を腱・神経・血管が通過しています。その部分を靴紐やシューズのベロによって圧迫を受けると神経を圧迫し拇趾と示趾の付け根の間に痺れや痛み、知覚鈍麻が発症します。この障害を前足根管症候群と呼びます。
●伸筋支帯と神経の解剖学的位置 ●神経と拇趾を動かす腱の解剖学的位置
●神経症の現れる部位
また、ガングリオンなどの発生により同様の機序で前足根管症候群は発症します。
ガングリオンとは、内容物がゼリー状の滑液で関節包(滑膜)の一部が局所的に膨らんで腫瘤になったものを言います。ガングリオンは、滑膜が存在する関節や腱鞘周囲であればどこにでも発生します。関節や腱鞘に繰り返し軽微な外力がかかったり、単回数でも大きな外力が加わることで発生します。袋の一部が膨隆しガングリオンが発生します。
ガングリオンが拇趾を動かす腱の周囲に発生し、腱を圧迫したり、近くの神経を圧迫することによって前足根管症候群が発症します。
●高校生女子バドミントン選手の足背に発生したガングリオン。画面ではわかりにくいのですが足背が腫れて盛り上がっています。
●エコーでは、腱と骨に挟まれるようにガングリオン(黒く見える部分)が発生していました。
(皮下になく表面から確認できないガングリオンをオカルトガングリオンと呼びます)
バドミントンでは右が利き腕の選手は、左足の拇趾でコートを蹴り出しますので、拇趾に繰り返しストレスがかかります。他競技と比べるとガングリオンの発生しやすい競技ではないでしょうか。
対策は、一度できたガングリオンは完全になくなることは難しいので、対処療法で経過観察します。頻回に症状が出現する場合は、外科にてガングリオンがある嚢胞の切除も視野に入れます。
対処療法は、ガングリオンが神経を圧迫しないようにラバーパッドで空間を作ります。
また、患部に超音波を照射することも有効です。
●ホームセンターなどで購入できる5㎜厚のラバーパッドを馬蹄形に切り出します。足のサイズに合わせて適当な大きさのものを作成します。
●靴下の中にラバーパッドを直接に入れます。靴下で押さえれば、テープなどをしなくてもパッドがずれるずれる心配がありません。
●装着場所は、ガングリオンが馬蹄形の空間に来るようにあてがいます。
●ほとんどの場合、数週間で痛みは軽快します。痺れが消失するにはもう少し時間がかかるかもしれません。