【症例の紹介】
起床時に指が曲がっていて伸ばそうとすると指の付け根の手のひら側に引っかかりを感じて痛む、そして無理に伸ばすとプチンと音がなり何とか伸びる。特に、親指・中指・薬指に好発します。このような症状の場合、屈筋腱の腱鞘炎を疑います。
指を曲げる腱は、第1関節(DIP関節)に停止する腱(深指屈筋腱)と第2関節(PIP関節)に停止する腱(浅指屈筋腱)の二つあります。それらの腱が2階建て構造で指の腹側を走行します。それらの腱を保護し滑走をよくするために腱鞘と呼ばれる鞘(さや、トンネル)で囲まれています。手のひらでこのトンネルがいったんなくなり手首あたりで再び発生します。このトンネルの出口で腱が出入りする際に引っかかります。
●左図の緑色が腱鞘でピンク色が腱です。赤いのは手掌の内在筋です。
●右図のA1プーリ-で腱が引っかかります。
親指と他の4本の指の構造は少し違いますが発生部位は大体同じです。
腱損傷・炎症の発生機序はfrict(擦れる),stretching(伸ばされる),impingement(挟まれる)です。
ケース1:母指ばね指(長母指屈筋腱鞘炎)
50歳代女性です。職業は教員をされています。教材の作成で左手で長時間木材を握っていたそうです。翌朝、起床時に左親指が固まったようになり痛くて伸ばすことができず、右手で無理に伸ばすとパチンと音がなり激痛が走ったそうです。その後3週間ほど経ってから来院されました。症状からばね指(Trigger Finger)を疑いました。視診・触診では左母指MP関節に硬結(膨らみ)がありその部分に限局した圧痛がありました。ガングリオンなどの存在がないか確認のためエコーを撮りました。エコーでは親指を曲げる腱(長母指屈筋腱)のA1プーリ-に黒く液体が貯留しているのが確認されました。
●左図:腱が肥厚化している部位です。
●右図:画面左が腱鞘の断面です。上に丸く白い腱が見えます。その周りを縁取るように黒く腱鞘が描出しています。正常は腱鞘は白い丸とほとんど同じ大きさの黒色ですが炎症がある部位は黒色が白色からはみ出したように描出されます。
画面右が腱に沿って描出しています。関節部のところで腱鞘が肥厚化しているのが確認できます。
施術は、就寝中に指が曲がらないように固定をするサポーターをつけていただき、原因となっている腱鞘A1プーリーにはスポットビームを照射し、腱には超音波を照射しました。また、IP関節の屈曲訓練から始め痛みと弾発現象が再発しないように注意しながらIP+MPと共同的な屈曲訓練を行いました。およそ1か月で痛みが消失し、その3か月後には弾発現象もおさまりました。
●左図:IP関節の屈曲訓練。
●右図:MP関節の屈曲訓練。
(まとめ)
腱・腱鞘は筋とは違い再生細胞がないので痛めると回復するのに時間がとてもかかります。また、肥厚化(太くなる)して治癒するので再び損傷を受けやすい状態になり再発を繰り返します。当院でも治療成績の悪い部位です。たかが指と思って放置されず早い目の受診をおすすめします。
指がシビレるのは神経に原因があるのですが、問題は神経がどの部位で侵害されているかです。例えば脳、頸椎、胸郭出口、肘部管、手根管、ギヨン管などです。
また、神経はそれぞれに支配領域があり、出現している症状の場所でおおよそどの神経に影響が出ているのか判断できます。
シビレを感じるのは感覚神経と呼ばれる末梢神経ですが、この神経は求心方向に一方通行です。なので、例えば肘で神経を絞扼し症状がある場合は、肘から先がシビレます。しかし肘より体の中心に近い部位には症状はでません。
これらの法則を理解して原因を判断し施術にあたります。
ケース1:手根管症候群(親指、人差し指、中指と薬指の半分がシビレる)
70歳代男性です。就寝していると朝方に右手3本の指(1,2,3指)に痺れがひどくなり目が覚めるということです。
整形外科にて頸部のレントゲンを撮影され椎間孔(脊髄から末梢神経が出る脊椎間の穴)の狭窄を指摘され頸椎症による正中神経障害と診断を受けられました。頸椎牽引と血流の改善を目的とした内服薬を処方され経過観察されていましたが症状改善の兆しがないということで、患者さんのかかりつけ内科医より拙院を紹介され来院されました。
問診では
- 朝方にシビレが強くなる
- 長時間自転車をこいでいても症状が悪化しない(自転車のこぐ姿勢は頸部が伸展位を取るため、頸椎症が原因の手指のシビレは悪化します。)
なので頸椎に原因がある事に疑問をもち徒手検査を行いました。
Jackson compression test(-),Adoson test(-),Phalen's test(+)でした。手首に手根管と呼ばれる神経と手指の腱が束になっている狭いトンネルがあり、そこで神経が圧迫をうけると手根管症候群になります。それを疑いエコー画像で観察してみました。
●Phalen's test(手首を曲げこの姿勢のまま30秒程度で指先にシビレが現れるかを確認します、シビレがあれば陽性です。)
●模型で手根管と正中線神経の走行を示します。画面左の丸い骨(豆状骨)と右の三角に尖がっている骨(大菱形骨)がつくるスペースが手根管です。黒いチューブが正中神経です。
●画面右の真ん中上に正中神経の断面が見えますが、左(健側)と比べると丸く太くなっており偽神経腫になっていました。
現在も加療中ですが手根管への超音波の照射で症状が軽減しており施術を継続して行く予定です。しかし、それでも症状に改善が見られない場合は就寝時に手関節の屈曲ブロックを目的とした装具を作成しようかと検討しています。
(まとめ)
神経症状の原因を判断するのはとても難しいです。特に高齢の方は、手指の神経症状にしろ腰部が原因の坐骨神経症状にしろ、レントゲンやMRIの画像では必ず骨の変形や脊柱管の狭窄が写ります。ですから診断は頸椎症であり変形性腰椎症であり脊柱管狭窄症であって間違いはないのですが...しかし、患者さんが申告されている痛みの発生状況とそれらの画像で診断された疾患の特徴的な痛む状況が一致しないことが多いです。
施術にあたる際に画像か問診かどちらを考慮して施術にあたればいいのか迷う事があります。
そのような時は、両方に施術をするようべきではないでしょうか。2つの施術の体におよぼす影響が互いに拮抗しなければという条件で。
指の第1関節(DIP)の背側(爪側)が盛り上がってきて痛むという症状は、中年以降の女性に多い訴えです。へバーデン結節(Herberden Node)と呼ばれる原因は不明なのですが、中年以降の女性と言うことでホルモンとの関係があるのではと言われています。
変形を伴う関節の痛みは、関節リウマチとの鑑別が必要になります。関節リウマチの定義は「比較的大きな関節に発症」、「1度に2関節以上対側(右・左両側)に発症し、「朝1時間以上の持続したこわばり」などでこれら症状にレントゲンでの関節の隙間の変化や変形、血液での抗体検査などで確定されます。
よくリウマチではないかと心配されるのですが、DIPはリウマチの可能性は低いとされています。それでも気になる場合は上記の確定診断の方法を説明させていただき専門医の受診をすすめさせていただきます。
現在は、残念ながら原因不明であり、特異な治療方法がありません。
ケース1:へバーデン結節(Heberden Node)
60歳代女性です。現在は、仕事をされていませんが以前は教員をされていました。数年前より手指の第1関節の背側に痛みを感じ、時には少し触れただけでも飛び上がるような痛みがあったそうです。その後、痛みは落ちついてきたそうですが変形は徐々にすすんでいるようです。
●第1関節の両側が上に盛り上がっています。
●左図:右環指第1関節の背面です。骨に棘が形成され盛り上がっています。
●右図:画面左が第1関節、右が第2関節です。当患者さんは、第1関節の変形(へバーデン結節)だけでなく、第2関節の変形(ブシャール結節)もあります。
指は伸ばすより曲げる事(ものを持つ事)が重要です。ものを持つ動作は、つかむ(grip)とつまむ(stick)があります。「つかむ」は、げんこつを握るように第1・2関節を曲げます。「つまむ」は、箸を持つように指の付け根から曲げます。「つかむ」は肘からの外来筋を、「つまむ」は手掌にある内在筋を使います。日常生活では「つかむ」より「つまむ」が重要です、なぜなら手先の細かい作業はすべて「つまむ」の動作だからです。
へバーデン結節では「つかむ」が困難になります。原因が不明であり、骨の結節形成のため根治は難しく、施術の第1目的は痛みの緩和と機能維持になります。
痛みの緩和には、超音波やスポットビームを使い血流の改善と過剰な肉芽細胞の増殖の抑制を行います。
機能維持には「つかむ」動作だけでなく、残存している「つまむ」動作の機能を維持しADLの低下を予防します。
●「つかむ」の動作訓練です。お風呂の中など温めてから行うと痛みも少ないです。
●「つまむ」の動作訓練①です。指を伸ばして開いたり閉じたりします。
●「つまむ」の動作訓練②です。親指が他の指と触れるように開いたり閉じたりします。
ラケット競技では、手指の痛みを訴える選手が多いです。練習量やグリップ方法が痛みの原因になります。
第1選択では、疲労骨折等の有無を医療機関で確認していただきます。骨折の可能性がない前提で他のケガを精査していきます。
痛みの部位、痛みの種類(ジンジン?ピリピリ?ズキズキ?…)、痛む動作などをよく問診し、関節炎、靭帯損傷、腱・腱鞘炎、骨端症などの鑑別を行います。
特に、バドミントンは軽いラケットを手指で操作することが多く、選手が痛みを訴えてきた場合にグリップ方法の確認をする必要があります。
ケース1:右示指の痛み(第1背側骨間筋コンパートメント)
10代の女子バドミントン選手です。練習量の増加に伴い、利き手示指(人差し指の内側~手の甲)のかけてジンジン・ズキズキと痛みがありました。
医療機関の画像診断では、骨折の疑いがなく少し休むようにと指示がありました。
●指さしている場所が痛みを強く発生している部位です。
練習量を落とすと痛みは軽減されるのですが、再開すると痛みが再発するを繰り返していました。
エコー画像では、関節炎や腱・腱鞘炎にみられる低輝度の画像はなく、圧痛が第2中手骨の橈背側に限局していることから第1背側骨間筋になんらかの原因があるのではと疑いました。
●模型で第1背側骨間筋(赤い色の筋肉)の位置を指しています。
●実際の位置(①)です。
●背側骨間筋の働きは、閉じた指を開きます。
また、グリップを確認すると、示指(人差し指)をかけるように握る特徴的なグリップ方法でした。
●示指(人差し指)の内側(橈側)でグリップを押す様に握っています。
ショットの際にグリップに示指(人差し指)が押され、第1背側骨間筋が伸展強制されてしまい、筋膜に覆われた筋内圧が上昇し痛みが発生してしまいます。(コンパートメント症候群:コンパートメントとは区画という意味です。筋膜は伸びないので、筋が炎症を起こし腫れると筋膜内の圧が上昇し筋膜のセンサーが痛みを感じ取ります。)
対処方法は様々ですが、当院では、患部に超音波を照射しています。
また、ラケットを振る際にはテーピングにより第1背側骨間筋の伸長ストレスを軽減するようにしています。
●25㎜幅のキネシオテープを使用します。基節骨遠位(第2関節の手前)に小指側から親指側に人差し指を引っ張るようにテープをはります。この時の、人差し指の開き具合でテーピングの強度が決まるので、ラケットの振りやすさと痛みの軽減具合でいいポジションを見つけてください。
●そのまま手首までテープをはっていきます。
●手掌側にテープがあるとグリップに張り付いて不快な場合は、手背側にテープを持ってきます。
●手首と指の関節部などテープが剥がれやすい部位を38mmの非伸縮テープで押さえて完成です。