【症例の紹介】
種子骨は、親指の付け根にある2つの小さい種子の様な形の骨で、着地時の衝撃を和らげるクッションのような役割をしたり、親指を付け根から曲げる筋肉(短母趾屈筋)や内側に引っ張る筋肉(母趾外転筋)の終点になっています。
種子骨障害は、この種子骨が地面に強く衝突したり、筋の牽引によって痛くなった状態のことをいいます。
レントゲンをとると種子骨が割れている場合もありますし、割れていないにも関わらず痛い場合もあります。また、生まれつき融合しない(分裂している)場合もあり、それらの形態が痛みとの相関関係がないことから総称して種子骨障害と呼ばれます。
●左図:実際の痛む部位 右図:模型
●足底の骨の模式図です。親指の付け根を拡大すると2つの筋が種子骨に終わっている様子がわかります。
ケース1: 種子骨障害(疲労骨折で融合が期待できた例)
中学2年生女子バドミントン選手です。拇趾の付け根が痛みを訴えてきました。エコーで観察すると右拇趾内側種子骨に亀裂を確認しました。関節部にはまだ成長線が存在しましたので、融合する可能性があると判断し、整形外科の診断を受けるようにすすめました。
●種子骨を縦にエコーで観察しました。(長軸像)
●左図(患側):画面右の丸い骨に亀裂があるのが確認できます。
●右図(健側):画面右の丸い骨がきれいな丸い形に見えます。
●種子骨を横にエコーで観察しました。(短軸像)
●画面左(患側):画面中央の種子骨に亀裂があるのが確認できます。
整形外科の診断では、融合の可能性があるので2か月安静の管理指導がありました。安静中は下肢に負担をかけないような練習を行うようにコーチにお願いしました。
●2か月後のエコー画像です。融合はまだ不十分ですが、かなり良好な状態に近づいていました。
当選手の障害部位は内側の種子骨でした。内側の種子骨は拇趾外転筋の停止部で、拇趾の外反強制により種子骨を筋が牽引し分裂させたのでは考えられました。
拇趾の外反強制とはすなわち外反母趾のことで、扁平回内足が主原因です。現在は、外反母趾予防のために内側縦アーチを補足するパッドをインソールに装着し経過観察をしています。
就寝中、朝方に足関節や足の指の付け根(特に拇趾)に痛みを感じ目が覚めた。よく見ると赤く腫れあがっていて、その腫れが足の甲まで広がっている。
特に、捻ったりぶつけた覚えがなく、しいて言うなら昨日は運動で軽く汗を流したくらいだ。
この様な症状がある場合は、痛風を疑います。
痛風は、血中の尿酸濃度が上昇する高尿酸血症の発作症状です。一昔前、痛風は「贅沢病」なんて言われていましたが決してそうとは言い切れません。また、プリン体の多い食事をすると発症するとも言われていますがそれも100%正しいとは言えません。
体質により体内で尿酸を過剰に生成してしまったり、尿で尿酸を体外に排出する能力が低い方がよく発症するようです。そのような体質の方が、高カロリーの食事をしたりアルコールを摂取すると発生リスクが高まります。
●足関節に発症した痛風です。発赤、腫脹、の他に浮腫(むくみ)を伴っています。
関節内に蓄積した尿酸結晶が、運動などで関節内に散布されると、関節内の免疫機構が異物と判断し攻撃を始めます。これが急性炎症を引き起こし痛みが一気に劇症化します。
ちなみによく似た症状で、尿酸が原因ではなくピロリン酸カルシウムの原因で発症する偽通風というのもあります。痛風は40歳代以降の男性で比較的小さい関節に発症します。偽通風は高齢者で大きい関節に発症すると言われていますが、どちらの疾患もどの関節にも発症する可能性があります。
症状は、①激痛(朝方に痛くなり寝ていられなくなる)、②関節の腫脹(関節が腫れたりその周囲がむくむ)、③発赤(皮膚が赤く変色する)、④熱感(熱を持っている)、⑤関節に液体貯留、⑥発生が不明瞭(ケガとなる原因がない)などです。
特に、関節の痛みや液体貯留の場合は、化膿性関節炎や関節リウマチなどの鑑別が必要なので、上記の症状がある場合は必ず医療機関にかかるべきです。
痛風の対処方法は、NSAIDs(非ステロイド系消炎剤 例:ロキソニン等)の服用ですが、初めて痛風に罹患された方は炎症が完成してからの服用になるので2~3週間は炎症症状が続く場合もあります。痛風は、独特の痛み方をしますので(経験した方ならわかると思います)、痛みの気配を感じたら早めのとんぷく服用が効果的です。
また、痛風はあくまでも発作なので、疾患の本体は高尿酸血症ということを忘れてはいけません。
高尿酸血症は、動脈硬化や脳卒中などの循環器系疾患の原因になりますので痛みがなくなれば治ったと勘違いしないで継続して医療機関にかかってください。
尿酸値が7.5程度でも頻回に痛風が発症する方もおられますし、9.0でも無症状の方もおられます。
生活習慣病は早期発見・早期治療はとても大切ですので、痛風発症を嘆くのではなく早期発見できたと前向きに考えてみてはいかがでしょうか。
痛風かなと思われたら、まずは医療機関にかかって下さい。
バドミントンに限らず、足底の胼胝や魚の目が痛んだり皮がめくれたりする選手から相談を受けます。皮膚科領域のケガですので専門医の受診を勧めます、しかし試合中や練習の現場では応急処置を施すことがあります。
皮膚は、表面から表皮・真皮・皮下組織の順で層になっています。また、表皮は角質層・顆粒層・有棘層・基底層の4層で構成されています。表皮は0.1㎜程度の厚さで血管や神経の分布がありません。スポーツ選手は、特定の部位にストレスが繰り返しかかるので表皮が胼胝などに変質し分厚くなります。分厚くなった表皮と真皮の間に軋轢が生じ引き裂かれるようにめくれます。真皮は神経受容器が富に分布していますので直接触れるととても痛いです。
表皮がめくれて真皮があらわになれば治癒へと向かいますが、表皮と真皮に軋轢があるにもかかわらず表皮がめくれていないケースでは、その空間に液体が貯留したり、時には膿がたまっていたりします。この場合は、皮下での内圧が上昇しとても痛むので、専門の医療機関で排膿してもらう必要があります。
一般的には第1中足骨頭(拇趾球)に発生する事が多いですが、バドミントンでは踵部(かかと)や第2・3中足骨頭部に多く発生します。競技特性やバドミントン選手の足が開帳足や扁平回内足を呈しているのに起因しているのではないでしょうか。
現場での応急処置は、①衛生管理、②ドレッシング(被覆)です。
1). 2~3分ほど流水で患部を洗い流します。創部はもちろんですが、皮膚が残っている場合は黄色ブドウ球菌などの常在菌が多く存在しますので、皮膚もしっかりと洗い流します。
2). 創部を皮膚で覆うようにしその上からプラスモイストでドレッシング(被覆)します。皮膚と創部が擦れて痛い場合はワセリンなどを塗るのも一つの方法です。また、ガーゼなどは線維の一部が皮膚に癒着しますので使わない方がよいと思います。
●プラスモイストを適当な大きさに切り、皮膚に直接あてがいます。
3).ドレッシングしたプラスモイストをテガターム(粘着性フィルム)でずれない様に固定します。プレーを継続しなければこの状態に包帯などで被覆して応急処置は終了です。
●サージカルテープなどで止めるよりフィルムを使用した方がドレッシング材がずれにくいです。
4).プレーを継続しなければならない場合はテガタームの上からライトテープでさらにずれないように固定します。
●ライトテープは、後ろから前へ貼るとはがれにくいです。また、足趾の付け根まで巻いた方がずれにくいです。
5).踵の場合は、その上からヒールカップを装着します。
●ドレッシング材をテーピングで固定した上から使用します。
何故、皮膚がめくれるかは用具の問題、選手の足の運び方、汗をかきやすいなど様々です。その中でも特に、中敷き(インソール)の材質や形状に着目し試行錯誤を重ねている途中です。また、良い結果が得られれば報告させていただきます。
ふくらはぎは、下腿三頭筋とよばれ3つの筋から構成されます。1つはヒラメ筋、残り2つが腓腹筋内側頭と外側頭です。ヒラメ筋はカカトの骨からアキレス腱を介し膝関節をまたがずに脛骨・腓骨の後面に着いています。腓腹筋は同様にアキレス腱を介し膝関節をまたぎ大腿骨後面に着いています。
膝関節を曲げた状態での足関節底屈をヒラメ筋が、膝関節を伸ばした状態での足関節底屈を腓腹筋が主に担っています。
●右脚を後ろから見た図です
ふくらはぎの肉離れは、足関節背屈位で筋が伸ばされている状態で筋が急速に縮もうとした時に筋と筋膜が引き剥がされるように受傷します。
また、筋が収縮していている状態からさらに収縮して過収縮状態になった際に筋内腱が剥がされるように受傷します。
臨床経験上では、その発生機序が引っ張られて受傷する伸長型(私が勝手にそう呼んでいます)と、過収縮をして受傷する収縮型(私が勝手にそう呼んでいます)に分類できるように思います。
伸長型は腓腹筋内側頭と外側頭の間にある矢状腱板やその下のヒラメ筋膜との間に好発しているように思います。また、収縮型は外側頭の近位(膝窩部)に多く発症している印象です。
●図左(健側):腓腹筋が三角形の頂点を右にさしながら確認できます。
●図右(患側):三角形の頂点が歪み、筋膜が剥がされている様子が確認できます。
選手の声として、「最初筋肉痛と思ったが段々と痛くなってきた」や「筋肉痛が肉離れに変わった」などと聞きます。Ⅰ度損傷の肉離れは、張りや軽い痛みを感じることが多く、肉離れと勘違いされることが良くあります。3日以上痛みや張りが持続する時は、肉離れなどの損傷に注意しながら対処にあたります。
軽度の肉離れの処置方法は、2日程度は非荷重で安静にし、患部にテーピングやバンデージで圧迫をします。その後は、超音波を照射し過剰な肉芽細胞の増殖を抑え筋が瘢痕化する(硬くなる)のを防止します。また、徐々に筋に長軸方向への柔軟性を取り戻すためのストレッチングを開始します。
●図左:下腿三頭筋のストレッチング。膝を伸ばして行います。
●図右:ヒラメ筋のストレッチング。膝を曲げて行います。
ふくらはぎの柔軟性が回復し、足首の背屈可動域が獲得されてからは、筋トレを開始します。非荷重から始め荷重を徐々にかけていきます。そして、歩行→軽いジョグ→ラン→専門的動作へと段階的に強度を上げていきます。
受傷直後は、RICESを中心に処置にあたりますが4日目以降は、積極的に患部に超音波をあて肉芽細胞の過形成を抑制し、ストレッチングにより正しい線維パターンの再形成を促します。
肉離れは、数日から数週間で自然と痛みが消失します。しかし、鎮痛後の加療をしない場合は筋が線維化(硬くなる)してしまったり、線維パターンが乱れた状態で再生してしまう事が多いです。また、筋委縮(筋が痩せてします)をおこす場合もあり、その後の競技に悪影響を残します。
重要な事は、痛みがなくなれば治ったと思うのではなく、その後のケアをしなければ痛みが引いていても再発するリスクがとても高いということです。
●図左:再発を繰り返している左下腿三頭筋です。筋が萎縮しています。
●図右:萎縮した筋のエコー画像です。線維パターンが消失しています。
*下腿三頭筋の予防的テーピングの方法は、「テーピングについて」の項で紹介しています。
アキレス腱は、人体最大の腱で下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)から始まり踵骨(かかとの骨)で終わっています。足先を下に向けるように足関節に作用します。
アキレス腱そのものが炎症を起こすケガをアキレス腱炎と呼びます。アキレス腱炎と似たケガには、
①アキレス腱が切れてしまう「アキレス腱断裂」
②アキレス腱の周りにある脂肪体や滑液包が炎症を起こす「アキレス腱周囲炎」
③アキレス腱と皮膚の間にある滑液包が腫れてしまう「Pump Bump」
④足首の骨(距骨)に過剰骨が存在する「三角骨障害」
などがあります。
それぞれのケガには特徴があり、ケガを判断する際にしっかりと鑑別する事が大切です。
アキレス腱断裂
アキレス腱断裂は、叩打感を伴い(後ろから叩かれた様な感じ)断裂します。大概、アキレス腱が切れた瞬間に選手は後ろを振り返る様に倒れます。
患部には陥凹があり、時間の経過につれ皮下に出血斑が出現します。
一般的にThompson testが陽性になりますが、完全に断裂していない場合や足底筋(下腿三頭筋に平行する細い筋)の影響によりtestが陰性になったり、歩行が可能な場合もあり注意が必要です。
●Thompson test ふくらはぎを掴むと、患側(左)では足首が動かないですが、健側(右)では足首が動きます。図では腹臥位・膝関節屈曲位で行っていますが膝関節伸展位で行うこともあります。
バドミントンでは他競技と比べアキレス腱断裂の発生頻度は高いと思います。また、私が経験した症例での男女比は、女子の方が多かったです。
アキレス腱炎
アキレス腱周囲炎は、アキレス腱の踵骨付近やアキレス腱そのものよりも深い場所に痛みを訴えます。滑液包や脂肪体の炎症と考えられています。足関節を強制的に底屈位にしたり自動運動での底屈で痛みが増します。また、アキレス腱付着部症(enthesis)では触れただけでも鋭い痛みを訴えます。パットで患部に靴が触れない様にしたり工夫します。
●アキレス腱と骨や皮膚の間には滑空をよくするためにいくつもの滑液包が存在します。また、アキレス腱と脛骨の後面の間には、隙間を埋めるように脂肪体があります。
Pump Bump
Pump Bumpは滑液包が腫れた状態で、痛みを伴う事もありますが慢性化すると腫れているけれど痛くない選手もいます。町中でハイヒールを履いている女性の踵にもよく確認できます。
●Pump Bump 写真は80歳代の女性です。痛みは全くないそうです。
●Pump Bumpの新鮮例 高校1年生で学校指定の革靴を履いて、約1か月後に発症。
●靴などの用具を変えて数週間後に痛くなるケースが多く、新鮮 症状はとても痛みます。
*対処方法は、テーピングの項目で紹介しています。
三角骨障害
三角骨障害は足関節を構成している距骨の後方(距骨外側突起)が大きかったり、多かったり(過剰骨)しその骨が陥頓(挟まること)し炎症を起こします。エコーでは確認できませんがレントゲンでははっきりとわかります。
足関節の底屈動作がとても重要な競技(競泳、シンクロ、器械体操、バレエなど)の選手は、手術で切除する事を前提で施術にあたります。そうでない競技の選手は痛みをモニターしながらできるだけ保存療法(手術しない)で対処していきます。
●模型ではわかりにくいですが三角骨障害になる突起部はやや外側にあります。
●圧痛はアキレス腱の外側深部に限局してあります。
●大学3年生男子バドミントン選手の足部のレントゲン写真です。過剰骨である三角骨は、大抵は左右両側に存在します。また、痛みがない場合もあります。
アキレス腱炎の予防方法
一般的に腱の炎症を引き起こす原因として擦れる(friction),伸ばされる(stretching),挟まる・衝突する(impingement)が主です。
アキレス腱炎の発症原因は、「伸ばされる(stretching)」がもっとも多いのではないでしょうか。
アキレス腱は下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)の力を踵骨に伝える組織なので、下腿三頭筋に硬さが出ると腱が伸長され炎症の原因になります。
また、バドミントンではアキレス腱の内側に痛みを訴えるケースが多く、アライメントに問題のある選手は、サイドへの蹴り出した足が回内してしまい内側が特に伸長されてしまうのではないでしょうか。
●図左:高校3年生女子バドミントン選手です。アキレス腱がびまん状に(もわーと)腫れているのが確認できます。
●図中央:エコー画像です。この選手は、両方のアキレス腱に炎症が見られますが、右(画面では左)のアキレス腱が特に肥厚化しており、上半分に低エコー画像が確認できました。腱炎の画像は、アキレス腱に限らず膝蓋腱でもこの様に2層構造にうつります。
●図右:蹴り出しの際に左足が回内し倒れてしまっている悪い例。
対処方法は、練習後のアイシング、超音波の照射、下腿三頭筋のストレッチング2種類、また、ヒールカップなどの装具を使用しアキレス腱への伸長ストレスを緩和します。
●図左:ヒラメ筋のストレッチング、図右:腓腹筋のストレッチング
●図左:衝撃吸収用のヒールカップ、図右:補高用のヒールウエッジです。どちらか選手が使用しやすい方をすすめます。
また、医学的には、アキレス腱炎がアキレス腱断裂の原因にはならないというのが定説です。しかし、腱炎も断裂もアキレス腱の硬さが発症原因の一つなので、腱炎を起こしている選手は断裂のリスクもあるという事を念頭に置いて対処しなければいけないと思います。