【症例の紹介】
「物を持ち上げると肘の外側が痛む」、「物を強く握ると肘が痛む」、「痛み方が骨の奥まで疼くようだ」「レントゲンを撮っても骨に異常が見られない」このような症状の場合、外側上顆炎が疑われます。外側上顆と呼ばれる場所は手首を外に回したり、手首を起こしたり、手指を伸ばしたりする筋が付着しているところです。肘の外側に膨らんでいる場所が外側上顆です。ちなみに内側は内側上顆と呼びます。
病名が外側上顆炎なので骨に異常があるように思われがちですが、骨に問題がある場合は稀で痛みの原因のほとんどが筋-腱の移行部や腱の骨に付着している部位です。
●外側上顆は、実際には外側のやや後方にあります。(指差しで示す)
●外側上顆から始まる筋は左画面の写真では上から順に、①手首を親指側に立てる働きをし人差し指の手の平で終わる筋(長橈側手根伸筋)、②手首を親指側に立てる働きをし中指の手の平で終わる筋(短橈側手根伸筋)、③親指以外の4本の指を伸ばす筋(総指伸筋)、④手首を小指側に寝かす筋が付いています(尺側手根伸筋)、それ以外に深い場所では手を外に回す筋(回外筋)や肘の安定化を図る筋(肘筋)などがあります。
外側上顆炎では、②と③の筋・腱やその付着部に痛みが好発します。
ケース1:外側上顆炎
40歳代女性です。職業は事務職でパソコンの入力が主な作業だそうです。明らかな発生機序がなく、およそ1か月前くらいから肘の外側がズキズキと痛みだしたそうです。整形外科にてレントゲンを撮られましたが骨の所見はなく湿布剤で経過観察をされていたのですが症状が変わらず来院されました。圧痛が外側上顆からやや遠位にあり筋と腱の移行部あたりが最も痛むようでした。筋断裂や筋膜の剥離がないかエコーで確認しましたが所見はありませんでした。Cozen test とMiddle finger extention testの2種類の徒手検査を行いました。結果、Cozen test(+), Mid finger ext test(-) でした。総指伸筋由来の外側上顆炎ではないかと判断しました。
●Cozen test(左)とMid finger ext test(右)です。手首やどの指に抵抗を加えてると痛みが出現するかを確かめます。
何故、力仕事をされてもいないのに外側上の筋が痛んだのでしょうか?
それは仕事の姿勢にヒントがありました。キーボードをたたく際に使われるのは指を曲げる筋ですが、それらを効率よく動かすためには手首を上に持ち上げ、指を曲げる筋の腱を手首の腹側に引っかかるようにすると力が伝わりやすいのです。頭で意識をしなくても人は動かしやすいように工夫をするようです。
●仕事の姿勢を再現して頂きました。手首を持ち上げる事により、指を曲げる筋が効率よくテンションがかかりやすい姿勢を自然ととられています。
施術は、ずっと同じ姿勢(アイソメトリックス)をとっていたために起きた筋の虚血性炎症(血流量の低下による筋・腱の炎症)と考え患部に超音波を照射し、患部の筋を伸ばすようなストレッチングをやっていただくように指導しました。また、アイシングではなく患部を温めていただくようにお願いしました。
(まとめ)
日常の癖や仕事の姿勢・動作が痛みの原因になっていることはよくあることです。問診を英語でhistoryといい、まさにその方の歴史を訪ねる作業です。画像検査や徒手検査で原因を発見することが困難な場合でも、丁寧な問診から原因を探り予想できるケースが多々あります。これからも「聞く」ではなく「聴く」すなわち「耳が徳する・耳を傾ける」心構えで患者さんのお話を聞かなければと思いました。
肘の関節は、伸ばす(伸展)・曲げる(屈曲)・内に回す(回内)・外に回す(回外)のように動きます。また、橈骨・尺骨・上腕骨の3つの骨からなりその周囲の関節包と靭帯で動きを制動されています。正常な肘関節の運動可動域は屈曲150°以上、伸展0~5°と言われています。これらの範囲以上で動く場合は柔らかいというよりも関節弛緩性(関節の緩さ)が高いと言います。
逆に可動範囲が少ない場合は、関節を構成する組織に何らかの器質的変性が起きていると考えられます。それらの骨や靭帯が関節を動かすときに詰まったり引っかかったりし運動の制限因子になります。
例えばタンスを壁に押し付けようとした際に、壁とタンスの間に何かありそれが詰まってそれ以上に動かせないや、タンスの手前で絨毯が引っ張って動かせない様なことと同じです。
ケース1:変形性肘関節症
50歳代の男性です。職業は自動車整備士です。右肘が痛く曲げ伸ばしが困難になり来院されました。整形外科でヒアルロン酸を関節注射されていたそうですが改善しなかったそうです。
関節可動域を計測したところ、屈曲100°、伸展-10°、どちらも痛みを伴っていました。徒手検査ではCozen test(+), Mill's test(-), 屈曲抵抗テスト(‐)、外反ストレステスト(‐)、内反ストレステスト(‐)でした。
外側上顆炎も示唆されましたが可動域減退の理由とは考えられなかったのでエコーで関節の状態を確認しました。
●肘関節屈曲位で上腕骨小頭をエコーで観察しました。
小頭に軟骨と軟骨下骨に変性があり、橈骨頭にも変形が確認できました。
肘関節は120°曲げられないとお箸で食べ物を口に運べなくなったりと日常生活に支障をきたします。また、就労にも影響があるので総合的に考え手術をすすめました。
総合病院で過剰に形成された骨を切除する手術を受けられました。術後は関節可動域が屈曲120°、伸展-5°まで回復されました。痛みはほとんど消失しADLにも影響がないようです。
現在は、ROM訓練の継続と外側上顆炎の施術を行っています。
●手術後の瘡部。
●手術後の可動域の計測。
(まとめ)
整形外科レベルの手術は、必ずしなければならないというよりは、患者さんのADL(日常生活動作)の低下具合を考慮して判断します。
このケースでは肘関節の屈曲可動域が120°を確保できていませんでしたので食事さえも不便な状態でした。手術の結果、120°以上に肘が曲がるようになり喜んでおられました。
可動域検査(ROM)は、ADLにとってとても重要な評価手段の1つではないかと思います。