【症例の紹介】
肩に痛みがないにもかかわらず、腕が上がらないのは腕を上げる筋(主に三角筋)を支配する神経に何かしらの問題が発生していると考えられます。
三角筋を支配している神経を腋窩神経といいます。この神経は第5・6・7頸椎の間から出現し鎖骨の下を通り肩に分布しています。この神経がなんらかの原因で絞扼(締め付け)し神経への栄養が十分に行き渡らなくなり神経障害が発生します。
特に、①頸部、②鎖骨下部、③外側四辺形間隙(QLS)が狭く神経を絞扼されやすい部位になります。※QLSとは四辺形間隙と言い、小円筋・上腕三頭筋・大円筋・上腕骨外科頸で囲まれた神経が通るスペースです。手を挙げるとこのスペースが狭くなり神経を絞扼し様々な神経症状が出現します。
頸部については、レントゲンやMRIなどの画像検査で確認できますが、その他の部位では画像による確定診断は難しいようです。
症例を紹介させていただきます。
ケース1:腋窩神経麻痺
80歳の男性です。既往歴はとくにありません。2か月前にマッサージ院でマッサージを受けられた翌日に突然に左腕が上がらなくなったそうです。
整形外科で頸部と肩部のMRIをとり器質的変化(骨折や肩の腱断裂、頸椎ヘルニアなどの構造的損傷)は認められなかったということでした。
整形外科ではリハビリをされていたそうですが、どうも拘縮肩のリハビリをオーダーされていたようで、効果がないということで紹介により来院されました。
事前に画像診断済でしたので頸椎症や肩腱板断裂の可能性は除外しました。前日に受けられたマッサージとの因果関係はわかりませんが頸部より下位になんらかの原因があるように考えられました。
●視診では左三角筋に明らかな萎縮がありました。
水平位までは自動での拳上(+)、それ以上は他動(+)、疼痛(-)
皮膚感覚(+)、臥位での自動屈曲(+)、MMT(2:Poor)と評価しました。
三角筋の萎縮、疼痛がなく自動運動での運動制限、肘関節から遠位の運動可、画像所見から腋窩神経障害(QLSでの絞扼)と判断し施術を行いました。
施術内容は、QLS部への超音波照射(1Mhz:1.0w/cm,2分×3セット)、左上腕3頭筋、大円筋のストレッチング、肩甲骨の外旋・下制誘導による自動運動訓練を行いました。生活動作では、左側臥位での就寝を控えるようにお願いしました。
4回の施術で自動運動での屈曲120°まで回復し加療中です。
(まとめ)
神経症状(筋力低下・運動麻痺、異常知覚・痺れ、知覚消失・感覚麻痺、炎症)がある場合は、重篤な疾患が隠れているケースもあり特に慎重に判断しなければならないのですが、今回は、来院以前に整形外科を受診されてからでしたので、早期に原因を絞り込むことができました。
ただ、高齢者の方は症状の申告をされる際に要領を得ず、病院での短い時間の問診の中で正確に伝わらない場合もあるようです。
私は、話を聞く立場ですので、そのあたりを考慮しながら患者さんと接しないといけないと思いました。
肩関節は骨が接する面積が小さく安定性を欠いています。その分自由度が高く関節の脱臼を防ぐために多くの筋、腱、靭帯が関節を取り巻いています。しかし、それらに栄養を与えている血管は細く脆弱で損傷や断裂を引き起こします。五十肩と思っていて実は、腱が断裂しているケースがあります。
ケース1:腱板損傷(棘上筋断裂 新鮮例)
60歳代女性です。自宅で洗濯カゴを両手に持ち階段を上っている途中、バランスをくずし右肩を壁にぶつけ態勢を立て直そうとしました。受傷直後はただの打撲だと思われていたのですが痛みが増してきたので翌日に来院されました。
上腕骨上部前面に皮下溢血があり、自動運動では屈曲90°、外転80°でそれ以上は疼痛により不可でした。拳上姿勢は、上腕骨の求心位が取れておらず肩甲骨を拳上したトリックモーションがありました。
腱板損傷を疑いエコー画像で確認しました。
●エコーでは左画面患側の棘上筋の上peribursal fat padの扁平化があり、また筋内が白く濁り血腫の存在が疑われました。
整形外科の受診をすすめ関節内注射をしていただきました。関節内からは血腫を抜きヒアルロン酸注射をされました。
縫合手術の提案をしましたが、患者さんのご希望により保存的に施術を行いました。現在は関節拘縮も起きずROMも回復しておられます。
ケース2:腱板損傷(棘上筋断裂 陳旧例)
70歳代女性です。半年前より肩が痛く腕があげられない状態になっておられ、就寝中の夜間痛も出現しているそうです。整形外科に通院中で内服と湿布剤、物療を行っておられましたが改善が見られないということで来院されました。
ROMは屈曲100°、外転90°、大結節に限局した圧痛がありました。視診では棘上筋、棘下筋に萎縮がありました。腱板損傷を疑いエコーで画像をとりました。 エコー画像ではperibursal fat padの扁平化と骨表面にnotchが確認され腱板損傷を疑いました。また、上腕二頭筋長頭腱腱鞘部に液体貯留があり腱鞘炎の存在も確認できました。majar injuryの腱板損傷の確定診断を確認するためにMRIを総合病院でオーダーしていただきました。
●右肩甲骨上の筋(棘上筋・棘下筋)の萎縮(痩せ)が確認できます。
●peribursal fat padの扁平化や大結節に骨表面の不整列が確認できます。
●MRIでは棘上筋断裂に損傷があります。
●長頭腱(白い円)の周囲に液体(黒い楕円)が確認できます。
手術の提案をしましたが、しばらくは保存療法を続けるという患者さんのご希望で施術を行いました。損傷部位と腱鞘炎部に超音波を照射し自発痛の軽減をある程度待ってから屈曲動作の再教育(忘れた正しい動かし方を再度練習する)を行いました。4か月ほどで運動時痛もほぼ消失しROMも健側同程度まで改善しました。
(まとめ)
あきらかな受傷機転がなくても、肩が痛く運動制限のある場合は、自己判断で五十肩と決められず一度画像を撮ってみるべきではないでしょうか。
特に、高齢の腱板は軽微な外力によっても簡単に断裂するケースがよくあり、外力が働いたと意識されていない方もおられます。
レントゲンは再現性が高く、簡易な画像診断方法ですが骨以外の軟部組織の判断には不向きです。MRIは軟部組織の状態を確認するにはとても有用ですが経費と時間がかかる欠点があります。エコーは簡便に軟部組織の確認ができますが、再現性が難しく正確な画像を描出するには施術者にそれなりの技術が必要とされます。病態を正確に判断するには、施術者が描出技術の習得を十分に訓練しこれらの画像診断方法を症状により上手く選択し施術に生かせれば素晴らしいと思います。
就寝中に突然、目が覚めるような肩の痛みが出現した。特に何もした覚えがない。このような症状の場合、肩の腱板や滑液包への石灰の沈着を疑います。石灰沈着性腱板炎や滑液包炎は中年以降の方によく見られます。レントゲンでもはっきりと存在が確認できます。
ケース1:石灰沈着性腱板炎
50歳代男性です。営業職ですが最近はデスクワークが多かったそうです。就寝中に左肩への激しい痛みで目が覚めたそうです。当日は痛みのため仕事が手につかず市販の鎮痛薬は全く効かなかったそうです。その日の夕方に来院されました。
患部に熱感があり、自動運動はほとんど不可能で右手で左手を支えていないと耐えられない様子でした。ROM検査はせずにエコーで内部を観察しました。エコーでは棘上筋内に石灰化した高エコー像が描出され石灰沈着が確認できましたので、当院の施術よりもステロイド関注が有効であろうと判断し近隣のペインクリニックに対診させていただきました。初回での関注では劇的な変化は見られませんでしたが、就寝中の激しい痛みは軽減しました。1週間は当院では施術せず三角巾で腕を吊り安静を図りました。2回の関注の後、超音波の照射とROM訓練を開始し3週目には痛みもなく日常生活動作が完全に回復しました。
●棘上筋内に白く高エコーの石灰が雲のように広がって見えます。
不思議な事に健側(右)の腱板にも石灰沈着がありましたが、以前に同様の痛みを経験されたことはないそうです。
(まとめ)
痛みの経過を観察すると、突然の痛み、熱感、数週間での回復と経過の変移が痛風発作と似ているように感じました。痛風は関節内に尿酸結晶が堆積しそれが関節内に拡散すると、免疫機能が反応し劇症的に炎症反応が現れます。私的な考察ですが石灰沈着性腱板炎も似たような機序ではないかと考えています。なので今回のケースでは、発症→1週間目までは、ステロイド関注(消炎)+NSAIDs服用(非ステロイド系消炎鎮痛薬)→2週間目まではステロイド関注+NSAIDs+ROM訓練、3週間目以降は継続してのROM訓練と経過観察によって比較的早期に解決できたのではないでしょうか
「物を持ち上げると肘の外側が痛む」、「物を強く握ると肘が痛む」、「痛み方が骨の奥まで疼くようだ」「レントゲンを撮っても骨に異常が見られない」このような症状の場合、外側上顆炎が疑われます。外側上顆と呼ばれる場所は手首を外に回したり、手首を起こしたり、手指を伸ばしたりする筋が付着しているところです。肘の外側に膨らんでいる場所が外側上顆です。ちなみに内側は内側上顆と呼びます。
病名が外側上顆炎なので骨に異常があるように思われがちですが、骨に問題がある場合は稀で痛みの原因のほとんどが筋-腱の移行部や腱の骨に付着している部位です。
●外側上顆は、実際には外側のやや後方にあります。(指差しで示す)
●外側上顆から始まる筋は左画面の写真では上から順に、①手首を親指側に立てる働きをし人差し指の手の平で終わる筋(長橈側手根伸筋)、②手首を親指側に立てる働きをし中指の手の平で終わる筋(短橈側手根伸筋)、③親指以外の4本の指を伸ばす筋(総指伸筋)、④手首を小指側に寝かす筋が付いています(尺側手根伸筋)、それ以外に深い場所では手を外に回す筋(回外筋)や肘の安定化を図る筋(肘筋)などがあります。
外側上顆炎では、②と③の筋・腱やその付着部に痛みが好発します。
ケース1:外側上顆炎
40歳代女性です。職業は事務職でパソコンの入力が主な作業だそうです。明らかな発生機序がなく、およそ1か月前くらいから肘の外側がズキズキと痛みだしたそうです。整形外科にてレントゲンを撮られましたが骨の所見はなく湿布剤で経過観察をされていたのですが症状が変わらず来院されました。圧痛が外側上顆からやや遠位にあり筋と腱の移行部あたりが最も痛むようでした。筋断裂や筋膜の剥離がないかエコーで確認しましたが所見はありませんでした。Cozen test とMiddle finger extention testの2種類の徒手検査を行いました。結果、Cozen test(+), Mid finger ext test(-) でした。総指伸筋由来の外側上顆炎ではないかと判断しました。
●Cozen test(左)とMid finger ext test(右)です。手首やどの指に抵抗を加えてると痛みが出現するかを確かめます。
何故、力仕事をされてもいないのに外側上の筋が痛んだのでしょうか?
それは仕事の姿勢にヒントがありました。キーボードをたたく際に使われるのは指を曲げる筋ですが、それらを効率よく動かすためには手首を上に持ち上げ、指を曲げる筋の腱を手首の腹側に引っかかるようにすると力が伝わりやすいのです。頭で意識をしなくても人は動かしやすいように工夫をするようです。
●仕事の姿勢を再現して頂きました。手首を持ち上げる事により、指を曲げる筋が効率よくテンションがかかりやすい姿勢を自然ととられています。
施術は、ずっと同じ姿勢(アイソメトリックス)をとっていたために起きた筋の虚血性炎症(血流量の低下による筋・腱の炎症)と考え患部に超音波を照射し、患部の筋を伸ばすようなストレッチングをやっていただくように指導しました。また、アイシングではなく患部を温めていただくようにお願いしました。
(まとめ)
日常の癖や仕事の姿勢・動作が痛みの原因になっていることはよくあることです。問診を英語でhistoryといい、まさにその方の歴史を訪ねる作業です。画像検査や徒手検査で原因を発見することが困難な場合でも、丁寧な問診から原因を探り予想できるケースが多々あります。これからも「聞く」ではなく「聴く」すなわち「耳が徳する・耳を傾ける」心構えで患者さんのお話を聞かなければと思いました。
肘の関節は、伸ばす(伸展)・曲げる(屈曲)・内に回す(回内)・外に回す(回外)のように動きます。また、橈骨・尺骨・上腕骨の3つの骨からなりその周囲の関節包と靭帯で動きを制動されています。正常な肘関節の運動可動域は屈曲150°以上、伸展0~5°と言われています。これらの範囲以上で動く場合は柔らかいというよりも関節弛緩性(関節の緩さ)が高いと言います。
逆に可動範囲が少ない場合は、関節を構成する組織に何らかの器質的変性が起きていると考えられます。それらの骨や靭帯が関節を動かすときに詰まったり引っかかったりし運動の制限因子になります。
例えばタンスを壁に押し付けようとした際に、壁とタンスの間に何かありそれが詰まってそれ以上に動かせないや、タンスの手前で絨毯が引っ張って動かせない様なことと同じです。
ケース1:変形性肘関節症
50歳代の男性です。職業は自動車整備士です。右肘が痛く曲げ伸ばしが困難になり来院されました。整形外科でヒアルロン酸を関節注射されていたそうですが改善しなかったそうです。
関節可動域を計測したところ、屈曲100°、伸展-10°、どちらも痛みを伴っていました。徒手検査ではCozen test(+), Mill's test(-), 屈曲抵抗テスト(‐)、外反ストレステスト(‐)、内反ストレステスト(‐)でした。
外側上顆炎も示唆されましたが可動域減退の理由とは考えられなかったのでエコーで関節の状態を確認しました。
●肘関節屈曲位で上腕骨小頭をエコーで観察しました。
小頭に軟骨と軟骨下骨に変性があり、橈骨頭にも変形が確認できました。
肘関節は120°曲げられないとお箸で食べ物を口に運べなくなったりと日常生活に支障をきたします。また、就労にも影響があるので総合的に考え手術をすすめました。
総合病院で過剰に形成された骨を切除する手術を受けられました。術後は関節可動域が屈曲120°、伸展-5°まで回復されました。痛みはほとんど消失しADLにも影響がないようです。
現在は、ROM訓練の継続と外側上顆炎の施術を行っています。
●手術後の瘡部。
●手術後の可動域の計測。
(まとめ)
整形外科レベルの手術は、必ずしなければならないというよりは、患者さんのADL(日常生活動作)の低下具合を考慮して判断します。
このケースでは肘関節の屈曲可動域が120°を確保できていませんでしたので食事さえも不便な状態でした。手術の結果、120°以上に肘が曲がるようになり喜んでおられました。
可動域検査(ROM)は、ADLにとってとても重要な評価手段の1つではないかと思います。
起床時に指が曲がっていて伸ばそうとすると指の付け根の手のひら側に引っかかりを感じて痛む、そして無理に伸ばすとプチンと音がなり何とか伸びる。特に、親指・中指・薬指に好発します。このような症状の場合、屈筋腱の腱鞘炎を疑います。
指を曲げる腱は、第1関節(DIP関節)に停止する腱(深指屈筋腱)と第2関節(PIP関節)に停止する腱(浅指屈筋腱)の二つあります。それらの腱が2階建て構造で指の腹側を走行します。それらの腱を保護し滑走をよくするために腱鞘と呼ばれる鞘(さや、トンネル)で囲まれています。手のひらでこのトンネルがいったんなくなり手首あたりで再び発生します。このトンネルの出口で腱が出入りする際に引っかかります。
●左図の緑色が腱鞘でピンク色が腱です。赤いのは手掌の内在筋です。
●右図のA1プーリ-で腱が引っかかります。
親指と他の4本の指の構造は少し違いますが発生部位は大体同じです。
腱損傷・炎症の発生機序はfrict(擦れる),stretching(伸ばされる),impingement(挟まれる)です。
ケース1:母指ばね指(長母指屈筋腱鞘炎)
50歳代女性です。職業は教員をされています。教材の作成で左手で長時間木材を握っていたそうです。翌朝、起床時に左親指が固まったようになり痛くて伸ばすことができず、右手で無理に伸ばすとパチンと音がなり激痛が走ったそうです。その後3週間ほど経ってから来院されました。症状からばね指(Trigger Finger)を疑いました。視診・触診では左母指MP関節に硬結(膨らみ)がありその部分に限局した圧痛がありました。ガングリオンなどの存在がないか確認のためエコーを撮りました。エコーでは親指を曲げる腱(長母指屈筋腱)のA1プーリ-に黒く液体が貯留しているのが確認されました。
●左図:腱が肥厚化している部位です。
●右図:画面左が腱鞘の断面です。上に丸く白い腱が見えます。その周りを縁取るように黒く腱鞘が描出しています。正常は腱鞘は白い丸とほとんど同じ大きさの黒色ですが炎症がある部位は黒色が白色からはみ出したように描出されます。
画面右が腱に沿って描出しています。関節部のところで腱鞘が肥厚化しているのが確認できます。
施術は、就寝中に指が曲がらないように固定をするサポーターをつけていただき、原因となっている腱鞘A1プーリーにはスポットビームを照射し、腱には超音波を照射しました。また、IP関節の屈曲訓練から始め痛みと弾発現象が再発しないように注意しながらIP+MPと共同的な屈曲訓練を行いました。およそ1か月で痛みが消失し、その3か月後には弾発現象もおさまりました。
●左図:IP関節の屈曲訓練。
●右図:MP関節の屈曲訓練。
(まとめ)
腱・腱鞘は筋とは違い再生細胞がないので痛めると回復するのに時間がとてもかかります。また、肥厚化(太くなる)して治癒するので再び損傷を受けやすい状態になり再発を繰り返します。当院でも治療成績の悪い部位です。たかが指と思って放置されず早い目の受診をおすすめします。
指がシビレるのは神経に原因があるのですが、問題は神経がどの部位で侵害されているかです。例えば脳、頸椎、胸郭出口、肘部管、手根管、ギヨン管などです。
また、神経はそれぞれに支配領域があり、出現している症状の場所でおおよそどの神経に影響が出ているのか判断できます。
シビレを感じるのは感覚神経と呼ばれる末梢神経ですが、この神経は求心方向に一方通行です。なので、例えば肘で神経を絞扼し症状がある場合は、肘から先がシビレます。しかし肘より体の中心に近い部位には症状はでません。
これらの法則を理解して原因を判断し施術にあたります。
ケース1:手根管症候群(親指、人差し指、中指と薬指の半分がシビレる)
70歳代男性です。就寝していると朝方に右手3本の指(1,2,3指)に痺れがひどくなり目が覚めるということです。
整形外科にて頸部のレントゲンを撮影され椎間孔(脊髄から末梢神経が出る脊椎間の穴)の狭窄を指摘され頸椎症による正中神経障害と診断を受けられました。頸椎牽引と血流の改善を目的とした内服薬を処方され経過観察されていましたが症状改善の兆しがないということで、患者さんのかかりつけ内科医より拙院を紹介され来院されました。
問診では
- 朝方にシビレが強くなる
- 長時間自転車をこいでいても症状が悪化しない(自転車のこぐ姿勢は頸部が伸展位を取るため、頸椎症が原因の手指のシビレは悪化します。)
なので頸椎に原因がある事に疑問をもち徒手検査を行いました。
Jackson compression test(-),Adoson test(-),Phalen's test(+)でした。手首に手根管と呼ばれる神経と手指の腱が束になっている狭いトンネルがあり、そこで神経が圧迫をうけると手根管症候群になります。それを疑いエコー画像で観察してみました。
●Phalen's test(手首を曲げこの姿勢のまま30秒程度で指先にシビレが現れるかを確認します、シビレがあれば陽性です。)
●模型で手根管と正中線神経の走行を示します。画面左の丸い骨(豆状骨)と右の三角に尖がっている骨(大菱形骨)がつくるスペースが手根管です。黒いチューブが正中神経です。
●画面右の真ん中上に正中神経の断面が見えますが、左(健側)と比べると丸く太くなっており偽神経腫になっていました。
現在も加療中ですが手根管への超音波の照射で症状が軽減しており施術を継続して行く予定です。しかし、それでも症状に改善が見られない場合は就寝時に手関節の屈曲ブロックを目的とした装具を作成しようかと検討しています。
(まとめ)
神経症状の原因を判断するのはとても難しいです。特に高齢の方は、手指の神経症状にしろ腰部が原因の坐骨神経症状にしろ、レントゲンやMRIの画像では必ず骨の変形や脊柱管の狭窄が写ります。ですから診断は頸椎症であり変形性腰椎症であり脊柱管狭窄症であって間違いはないのですが...しかし、患者さんが申告されている痛みの発生状況とそれらの画像で診断された疾患の特徴的な痛む状況が一致しないことが多いです。
施術にあたる際に画像か問診かどちらを考慮して施術にあたればいいのか迷う事があります。
そのような時は、両方に施術をするようべきではないでしょうか。2つの施術の体におよぼす影響が互いに拮抗しなければという条件で。
指の第1関節(DIP)の背側(爪側)が盛り上がってきて痛むという症状は、中年以降の女性に多い訴えです。へバーデン結節(Herberden Node)と呼ばれる原因は不明なのですが、中年以降の女性と言うことでホルモンとの関係があるのではと言われています。
変形を伴う関節の痛みは、関節リウマチとの鑑別が必要になります。関節リウマチの定義は「比較的大きな関節に発症」、「1度に2関節以上対側(右・左両側)に発症し、「朝1時間以上の持続したこわばり」などでこれら症状にレントゲンでの関節の隙間の変化や変形、血液での抗体検査などで確定されます。
よくリウマチではないかと心配されるのですが、DIPはリウマチの可能性は低いとされています。それでも気になる場合は上記の確定診断の方法を説明させていただき専門医の受診をすすめさせていただきます。
現在は、残念ながら原因不明であり、特異な治療方法がありません。
ケース1:へバーデン結節(Heberden Node)
60歳代女性です。現在は、仕事をされていませんが以前は教員をされていました。数年前より手指の第1関節の背側に痛みを感じ、時には少し触れただけでも飛び上がるような痛みがあったそうです。その後、痛みは落ちついてきたそうですが変形は徐々にすすんでいるようです。
●第1関節の両側が上に盛り上がっています。
●左図:右環指第1関節の背面です。骨に棘が形成され盛り上がっています。
●右図:画面左が第1関節、右が第2関節です。当患者さんは、第1関節の変形(へバーデン結節)だけでなく、第2関節の変形(ブシャール結節)もあります。
指は伸ばすより曲げる事(ものを持つ事)が重要です。ものを持つ動作は、つかむ(grip)とつまむ(stick)があります。「つかむ」は、げんこつを握るように第1・2関節を曲げます。「つまむ」は、箸を持つように指の付け根から曲げます。「つかむ」は肘からの外来筋を、「つまむ」は手掌にある内在筋を使います。日常生活では「つかむ」より「つまむ」が重要です、なぜなら手先の細かい作業はすべて「つまむ」の動作だからです。
へバーデン結節では「つかむ」が困難になります。原因が不明であり、骨の結節形成のため根治は難しく、施術の第1目的は痛みの緩和と機能維持になります。
痛みの緩和には、超音波やスポットビームを使い血流の改善と過剰な肉芽細胞の増殖の抑制を行います。
機能維持には「つかむ」動作だけでなく、残存している「つまむ」動作の機能を維持しADLの低下を予防します。
●「つかむ」の動作訓練です。お風呂の中など温めてから行うと痛みも少ないです。
●「つまむ」の動作訓練①です。指を伸ばして開いたり閉じたりします。
●「つまむ」の動作訓練②です。親指が他の指と触れるように開いたり閉じたりします。
ラケット競技では、手指の痛みを訴える選手が多いです。練習量やグリップ方法が痛みの原因になります。
第1選択では、疲労骨折等の有無を医療機関で確認していただきます。骨折の可能性がない前提で他のケガを精査していきます。
痛みの部位、痛みの種類(ジンジン?ピリピリ?ズキズキ?…)、痛む動作などをよく問診し、関節炎、靭帯損傷、腱・腱鞘炎、骨端症などの鑑別を行います。
特に、バドミントンは軽いラケットを手指で操作することが多く、選手が痛みを訴えてきた場合にグリップ方法の確認をする必要があります。
ケース1:右示指の痛み(第1背側骨間筋コンパートメント)
10代の女子バドミントン選手です。練習量の増加に伴い、利き手示指(人差し指の内側~手の甲)のかけてジンジン・ズキズキと痛みがありました。
医療機関の画像診断では、骨折の疑いがなく少し休むようにと指示がありました。
●指さしている場所が痛みを強く発生している部位です。
練習量を落とすと痛みは軽減されるのですが、再開すると痛みが再発するを繰り返していました。
エコー画像では、関節炎や腱・腱鞘炎にみられる低輝度の画像はなく、圧痛が第2中手骨の橈背側に限局していることから第1背側骨間筋になんらかの原因があるのではと疑いました。
●模型で第1背側骨間筋(赤い色の筋肉)の位置を指しています。
●実際の位置(①)です。
●背側骨間筋の働きは、閉じた指を開きます。
また、グリップを確認すると、示指(人差し指)をかけるように握る特徴的なグリップ方法でした。
●示指(人差し指)の内側(橈側)でグリップを押す様に握っています。
ショットの際にグリップに示指(人差し指)が押され、第1背側骨間筋が伸展強制されてしまい、筋膜に覆われた筋内圧が上昇し痛みが発生してしまいます。(コンパートメント症候群:コンパートメントとは区画という意味です。筋膜は伸びないので、筋が炎症を起こし腫れると筋膜内の圧が上昇し筋膜のセンサーが痛みを感じ取ります。)
対処方法は様々ですが、当院では、患部に超音波を照射しています。
また、ラケットを振る際にはテーピングにより第1背側骨間筋の伸長ストレスを軽減するようにしています。
●25㎜幅のキネシオテープを使用します。基節骨遠位(第2関節の手前)に小指側から親指側に人差し指を引っ張るようにテープをはります。この時の、人差し指の開き具合でテーピングの強度が決まるので、ラケットの振りやすさと痛みの軽減具合でいいポジションを見つけてください。
●そのまま手首までテープをはっていきます。
●手掌側にテープがあるとグリップに張り付いて不快な場合は、手背側にテープを持ってきます。
●手首と指の関節部などテープが剥がれやすい部位を38mmの非伸縮テープで押さえて完成です。
膝が痛くなりレントゲンを撮ると膝の関節軟骨が減っていると言われたと相談をよく受けます。一度減った軟骨は元に戻らないのか?とも。
体の中には軟骨が3種類あります(成長軟骨板は別として)。1つは線維軟骨といい比較的頑丈で弾力があり骨どうしの連結する働きをしています。椎間板や恥骨結合がそれです。2つ目は弾性軟骨といいゴムのようにとても弾力に富んでいます。耳介や気管の周りを覆っています。そして3つ目が硝子軟骨です。いわゆる軟骨と呼ばれていて関節を構成しています。摩擦係数がアイススケートの1/100とも言われています。
どの軟骨にも成人以降は血管の進入がなく傷がついても再生する力がありません。しかし、骨や筋などは再生する力がありますが再生した部位は傷がつく以前よりも太く硬く(線維化と言います)なります。もし、軟骨にこの様な事が起きると軟骨はボコボコになってしまい余計に滑りにくくなってしまいます。再生せずにすり減ったままの方が都合がいい場合もあります。
脚の見た目がO脚になっているから変形性と思われがちですが、病名での変形性とは軟骨がすり減っていたり骨棘が形成されていたりと皮膚の外からでは判断できないものをいいます。40歳代を過ぎるとどなたも少なからず軟骨がすり減り骨棘が形成されます。レントゲンを見れば皆さん変形性〇〇関節症になります。
では痛みと軟骨の摩耗が関係しているのでしょうか?答えは「微妙です」としか言えません。軟骨には血管の進入がありません、すなわち神経が通っていないのです。だから痛みも感じないのです。軟骨がすごく摩耗して軟骨下骨がむき出しになり直接ぶつかると痛むのでしょうが、そのような人は本当に稀です。エコーで観察するとほとんどの方は2㎜ほどの厚みを確認できます。
何故痛むのか?明確な答えは難しく、人により痛む箇所もまちまちで腱であったり筋であったりまた滑膜であったりという風です。やはり問診や徒手検査、画像などで総合的に判断するべきではないでしょうか。
●60歳代の女性です。レントゲンでは内側の関節の隙間が外側よりも狭くなっています。典型的な変形性膝関節症の方の画像です。軟骨はレントゲンには写らないので軟骨が多くあるところは黒く浮いているように見え、少ないところは狭く見えます。ちなみに関節リウマチの膝の映像は内も外も狭く写ります。
エコーでは関節軟骨は以下のように描出されます。
●左:大腿骨内側顆の関節面 右:膝蓋大腿関節の関節面の描出方法
●30歳代男性の膝関節のエコー画像です。
●右図:白く丸く大腿骨の周りに黒く縁取るように見えるのが関節軟骨です。●左図:波打つように白く見えるのが骨でその上の黒い縁取りが関節軟骨です。
●80歳代女性の膝関節のエコー画像です。
●30歳代のそれと比較すると軟骨・軟骨下骨が摩耗しています。右図の膝蓋大腿関節も同様です、また画面左には骨棘の形成が確認できます。
上図の80歳代女性が来院当初は膝の痛みがひどく100°程度しか曲げられなかったのですが、現在は痛みもなく正座ができるまでに回復されています。しかし、完全な伸展は困難で-5°ほど曲がったままです。膝関節のADLについては曲げられる方が日常生活には困らないのですが、立位や歩行では完全伸展できる事が重要です。今後は膝蓋腱下脂肪体が滑らかに動かせるように施術を継続していきたいと思っています。
膝に水が溜まって痛いと訴える患者さんが多く来院されます。そういった患者さんは水を抜くとクセになるから抜かないと言われます。水が溜まるのは症状であって原因ではありません。何かの原因でその結果水が溜まっているのです。水を抜いてもすぐに溜まるのは原因が解決されていないからです。
何故、水が溜まるのでしょうか?一言でいえば関節内に炎症があるからです。
炎症と言っても原因はさまざまです。関節内に細菌が繁殖して水が溜まる感染性関節炎は、小児に多く発生し微熱を伴います。早期の対処をしなければ重篤な状態に陥ることもあります。関節水腫の糖度を調べると血糖と比較し関節水腫の糖度が著しく低い場合は細菌の繁殖を疑います。
老化が原因で起こる関節水腫には偽通風があります。関節内にピロリン酸カルシウムが蓄積しそれが何かの拍子に関節内に拡散し、拡散したピロリン酸カルシウムを免疫が攻撃し炎症を引き起こします。痛風も同様のメカニズムで発症します。痛風は尿酸結晶が関節内に拡散します。痛風は男性に多く小さい関節に多く発症すると言われていますが偽通風は肘や膝などの比較的大きな関節に発症します。関節水腫の検査でピロリン酸カルシウムが検出されれば偽通風の疑いが高まります、また血液検査で尿酸値が高ければ痛風の疑いがあります。これらの関節炎の特徴は、発赤・熱感・浮腫・自発痛です。赤くはれ上がり、触れると熱を感じ、就寝中に痛みが増すようであればとても疑わしいです。
関節リウマチもまた関節内水腫の原因になります。膠原病のひとつで女性に多く対側、2関節以上の関節に同時に発症します。私が経験した患者さんは、水腫を抜いてもすぐに同量溜まり、引いたと思うと反対側の関節に再び溜まるという具合でした。整形外科では変形性との診断でしたが血液検査をしていただき関節リウマチの診断を頂きました。その後は専門医にかかられ状態が寛解しておられます。
ぶつけたや転んだなどの外傷がなく、また上記の様な原因がないにも関わらず水腫が発症するのは何が原因なのでしょうか。私は、滑膜炎ではないかと思っています。滑膜とは関節を覆っている関節包の内側の膜で滑らかで関節運動をスムーズに行えるように補助しています。
●膝の内側から見た模式図です。骨(Femur)と骨(Tibia)の間やお皿(Patella)の裏側にある赤い袋状のものが滑膜です。Swellingとは腫脹と言う意味です。水が溜まると滑膜が伸びお皿の上がブヨブヨしたりカンカンした状態で膨れます。
この滑膜が年齢とともに滑らかな表面にヒダヒダが形成され摩擦を起こしやすくなります。また、滑膜には免疫をつかさどる細胞が多く存在し炎症を起こすと素早く反応します。炎症が起こるとタンパク質濃度が高くなり浸透圧を調節するために体液を多く循環させ濃度を調和させます。そのために関節内に水が溜まります。炎症が引くと水は自然と吸収され元の状態に戻ります。
●ピンク色の滑膜にヒダが形成されている模式図です。
ケース1:関節水腫(滑膜炎ではないかと疑われたケース)
70歳代女性です。山登りの3日後に太腿前に張りを感じ来院されました。
視診ではお皿の上にぼんやりとした膨らみがあり皺がなくなっておられました。発赤・熱感はありませんでした。徒手検査で前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靭帯、半月板損傷の可能性を消去しエコー画像を確認しました。
エコーでは関節内に液体が確認できました。
●画面右上にお皿の上端があり、画面中央に大腿骨が白い線で見えます。その上に黒い塊で描出されているのが関節水腫です。
山登りで膝の曲げ伸ばしを繰り返したことにより滑膜のヒダが互いに擦れ合い炎症が起きたのではないかと推測しました。施術は膝蓋上嚢に超音波を照射し消炎させ、お皿を誘導的に動かし膝蓋大腿関節の滑らかな動きを獲得するようにしました。およそ1か月ほどで水腫が消失し、現在は関節可動域も100%回復しました。
その他:ベーカー嚢胞
ベーカー嚢胞は膝の裏に溜まる水のことで半腱様筋と腓腹筋の間にある滑液包が前にある膝蓋上嚢と交通しているためにおこる状態と考えられています。特に、気にする事はないのですが関節リウマチによる水腫との鑑別が必要になります。不自由さを感じた場合は、整形外科で水を抜かれる患者さんもおられます。
●膝の裏、内側を描出しています。
●丸く黒く描出されているのがベーカー嚢胞です。画面右に三角形をした腓腹筋が見えその上には半腱様筋が薄く見えています。
転倒などをした際に膝を地面に打ち付けてしまい膝がしらを痛めてしまう事があります。打撲と思いがちですが、膝のお皿が骨折している事が稀にあります。
お皿は太腿の前面の筋と膝蓋腱を上下につなぐ分厚い腱膜で覆われていて骨折をしていても骨片が大きく遊離する事は少なく、よほど大きな外力が加わらない限り発生しないです。
徒手検査ではDreyer's Testを行いますが信頼性の高いテストではなく、やはり画像による診断が第1選択となります。当院でもエコーによる確認をしますが確定診断には整形外科にてレントゲンをとられることをおすすめします。
ただ、よく似た映像に分裂膝蓋骨があり鑑別が必要です。分裂膝蓋骨は生まれつきの過剰骨や融合せずに遊離した骨片が存在した状態です。この器質的な状態は変わらず痛みが発生すると有痛性分裂膝蓋骨と呼ばれます。特に、思春期の男子が外側上部に痛みを訴える事が多いです。
分裂膝蓋骨は両側に存在することが多いので、反対側との比較も大切です。
例えば
膝をぶつけた
↓
レントゲンを片側だけとった
↓
骨片があった
↓
骨折してる
(でも実は、過剰骨だった)
なんてならないように反対側も観察対象にするべきだと思います。
●膝蓋骨骨折のエコー画像です。お皿の表面に亀裂が確認できます。
また、その上(皮下)に黒く出血による血腫と白くモヤモヤした浮腫があります。
●私的考察ですが骨折の場合、この様な血腫と浮腫がセットである事が多いと思います。
●分裂膝蓋骨のエコー画像です。両側にお皿の表面に分離した映像が確認できますが、ゴツゴツしたように見え骨折線ないことがわかります。
●骨の表面皮下組織には皮下溢血や浮腫の存在はありません。
肉離れは、関節運動による筋の伸展と自動運動による筋の収縮にラグ(ズレ)が生じ筋や筋膜が裂けるように傷ついた状態です。
肉離れの生じる部位による様々なタイプがあります。
①筋膜が裂けるように傷つくタイプ
②筋内腱と筋線維が裂けるように傷つくタイプ
③腱から筋への移行部が裂けるように傷つくタイプ
などが代表的なタイプです。
筋挫傷は介達外力による外傷なので、どの筋のどの部位に好発するかがは定型的です。
大腿前面の筋群は主に股関節の屈曲(大腿を前に持ち上げる)と膝関節の伸展(膝を伸ばす)に作用します。
筋は、一つの関節をまたいでそれぞれの骨に付着する単関節筋と二つ以上の関節をまたいでいる多関節筋に分類されます。
大腿前面の主な筋では、大腿四頭筋がありその名の通り4つの筋頭を持っています。
①大腿直筋、②内側広筋、③中間広筋、④外側広筋がそれで、①大腿直筋だけが股関節と膝関節をまたぐ多関節筋で、それ以外の3筋は膝関節のみをまたぐ単関節筋です。
また、縫工筋は多関節筋に分類されます。
●大腿四頭筋の分類
●縫工筋(青色で図示)
ランニングやランジなどの動作で好発するこのケガは、股関節が屈曲位で近位(心臓に近い方)の筋が収縮しているにも関わらず膝関節は屈曲位で遠位(心臓に遠い方)の筋は伸展しており、一つの筋ないで近位の筋線維(股関節の付近)と遠位の筋線維(膝関節付近)に収縮と伸展のラグが発生し受傷機転となります。
●同一の筋内で収縮と伸展という相反する働きが起きる。
①筋膜が裂けるように傷つくタイプ
高校女子バドミントン選手です。前方向にシャトルを追いかけてランジ動作を踏ん張った際に受傷しました。
画像はありませんが、大腿外側の前面に皮下出血が確認され、圧痛、動作痛が著明でした。
エコー画像では、外側広筋と直筋との間の筋膜に血腫がありました。
●左図:短軸像 筋膜の間に黒く低輝度に見える出血が確認できます。
●右図:長軸像 同様に筋膜間に黒く出血が確認できます。
●およそ1か月で血腫が消失しました。
②筋内腱と筋線維が裂けるように傷つくタイプ
高校男子サッカー選手です。ダッシュ練習を行っている最中に徐々に大腿の外側に痛みが発生し、その後強くボールを蹴った際に歩けないほどの激痛が出現しました。
●左大腿外側に局所的な膨隆が確認できます。皮下出血はなく圧痛と動作痛が著明でした。
●左図:短軸像 筋の中には無数の小さな腱が存在します(筋内腱)。エコーでは、筋内腱と筋の間に、黒く低輝度の出血が確認できます。
●右図:長軸像 短軸像と同様に筋内に黒く出血が確認できます。
当選手は、試合期のために完全に休養をとることができずテーピングによる圧迫でプレーを続けました。
2か月の間、軽微な再発を繰り返しながらもどうにか試合にも出場しました。現在は、完治しています。
③腱から筋への移行部が裂けるように傷つくタイプ高校生女子バドミントン選手です。サイドへのランジで股関節の付け根が痛くなったと訴えてきました。
下前腸骨棘(AIIS)に限局した痛みがあり、仰向けの状態での股関節屈曲動作(SLR)が痛みの為に不可能でした。
裂離骨折との鑑別のためにエコー画像を取りました。
骨折はなく、筋挫傷による出血を疑う画像が確認できました。
●左図:短軸像 大腿直筋の腱から筋への移行部に限局した低輝度なエコー像があり出血が疑われました。
●右図:長軸像 同様に黒く見える部位に出血が疑われました。
3週間程度のアスリハプログラムで、競技復帰を果たしました。ランジ動作の改善を促しました。詳しくは股関節節の痛み(FAI)のページで詳しく書きます。
テーピングの方法はテーピングの項で紹介しています。
種子骨は、親指の付け根にある2つの小さい種子の様な形の骨で、着地時の衝撃を和らげるクッションのような役割をしたり、親指を付け根から曲げる筋肉(短母趾屈筋)や内側に引っ張る筋肉(母趾外転筋)の終点になっています。
種子骨障害は、この種子骨が地面に強く衝突したり、筋の牽引によって痛くなった状態のことをいいます。
レントゲンをとると種子骨が割れている場合もありますし、割れていないにも関わらず痛い場合もあります。また、生まれつき融合しない(分裂している)場合もあり、それらの形態が痛みとの相関関係がないことから総称して種子骨障害と呼ばれます。
●左図:実際の痛む部位 右図:模型
●足底の骨の模式図です。親指の付け根を拡大すると2つの筋が種子骨に終わっている様子がわかります。
ケース1: 種子骨障害(疲労骨折で融合が期待できた例)
中学2年生女子バドミントン選手です。拇趾の付け根が痛みを訴えてきました。エコーで観察すると右拇趾内側種子骨に亀裂を確認しました。関節部にはまだ成長線が存在しましたので、融合する可能性があると判断し、整形外科の診断を受けるようにすすめました。
●種子骨を縦にエコーで観察しました。(長軸像)
●左図(患側):画面右の丸い骨に亀裂があるのが確認できます。
●右図(健側):画面右の丸い骨がきれいな丸い形に見えます。
●種子骨を横にエコーで観察しました。(短軸像)
●画面左(患側):画面中央の種子骨に亀裂があるのが確認できます。
整形外科の診断では、融合の可能性があるので2か月安静の管理指導がありました。安静中は下肢に負担をかけないような練習を行うようにコーチにお願いしました。
●2か月後のエコー画像です。融合はまだ不十分ですが、かなり良好な状態に近づいていました。
当選手の障害部位は内側の種子骨でした。内側の種子骨は拇趾外転筋の停止部で、拇趾の外反強制により種子骨を筋が牽引し分裂させたのでは考えられました。
拇趾の外反強制とはすなわち外反母趾のことで、扁平回内足が主原因です。現在は、外反母趾予防のために内側縦アーチを補足するパッドをインソールに装着し経過観察をしています。
就寝中、朝方に足関節や足の指の付け根(特に拇趾)に痛みを感じ目が覚めた。よく見ると赤く腫れあがっていて、その腫れが足の甲まで広がっている。
特に、捻ったりぶつけた覚えがなく、しいて言うなら昨日は運動で軽く汗を流したくらいだ。
この様な症状がある場合は、痛風を疑います。
痛風は、血中の尿酸濃度が上昇する高尿酸血症の発作症状です。一昔前、痛風は「贅沢病」なんて言われていましたが決してそうとは言い切れません。また、プリン体の多い食事をすると発症するとも言われていますがそれも100%正しいとは言えません。
体質により体内で尿酸を過剰に生成してしまったり、尿で尿酸を体外に排出する能力が低い方がよく発症するようです。そのような体質の方が、高カロリーの食事をしたりアルコールを摂取すると発生リスクが高まります。
●足関節に発症した痛風です。発赤、腫脹、の他に浮腫(むくみ)を伴っています。
関節内に蓄積した尿酸結晶が、運動などで関節内に散布されると、関節内の免疫機構が異物と判断し攻撃を始めます。これが急性炎症を引き起こし痛みが一気に劇症化します。
ちなみによく似た症状で、尿酸が原因ではなくピロリン酸カルシウムの原因で発症する偽通風というのもあります。痛風は40歳代以降の男性で比較的小さい関節に発症します。偽通風は高齢者で大きい関節に発症すると言われていますが、どちらの疾患もどの関節にも発症する可能性があります。
症状は、①激痛(朝方に痛くなり寝ていられなくなる)、②関節の腫脹(関節が腫れたりその周囲がむくむ)、③発赤(皮膚が赤く変色する)、④熱感(熱を持っている)、⑤関節に液体貯留、⑥発生が不明瞭(ケガとなる原因がない)などです。
特に、関節の痛みや液体貯留の場合は、化膿性関節炎や関節リウマチなどの鑑別が必要なので、上記の症状がある場合は必ず医療機関にかかるべきです。
痛風の対処方法は、NSAIDs(非ステロイド系消炎剤 例:ロキソニン等)の服用ですが、初めて痛風に罹患された方は炎症が完成してからの服用になるので2~3週間は炎症症状が続く場合もあります。痛風は、独特の痛み方をしますので(経験した方ならわかると思います)、痛みの気配を感じたら早めのとんぷく服用が効果的です。
また、痛風はあくまでも発作なので、疾患の本体は高尿酸血症ということを忘れてはいけません。
高尿酸血症は、動脈硬化や脳卒中などの循環器系疾患の原因になりますので痛みがなくなれば治ったと勘違いしないで継続して医療機関にかかってください。
尿酸値が7.5程度でも頻回に痛風が発症する方もおられますし、9.0でも無症状の方もおられます。
生活習慣病は早期発見・早期治療はとても大切ですので、痛風発症を嘆くのではなく早期発見できたと前向きに考えてみてはいかがでしょうか。
痛風かなと思われたら、まずは医療機関にかかって下さい。
バドミントンに限らず、足底の胼胝や魚の目が痛んだり皮がめくれたりする選手から相談を受けます。皮膚科領域のケガですので専門医の受診を勧めます、しかし試合中や練習の現場では応急処置を施すことがあります。
皮膚は、表面から表皮・真皮・皮下組織の順で層になっています。また、表皮は角質層・顆粒層・有棘層・基底層の4層で構成されています。表皮は0.1㎜程度の厚さで血管や神経の分布がありません。スポーツ選手は、特定の部位にストレスが繰り返しかかるので表皮が胼胝などに変質し分厚くなります。分厚くなった表皮と真皮の間に軋轢が生じ引き裂かれるようにめくれます。真皮は神経受容器が富に分布していますので直接触れるととても痛いです。
表皮がめくれて真皮があらわになれば治癒へと向かいますが、表皮と真皮に軋轢があるにもかかわらず表皮がめくれていないケースでは、その空間に液体が貯留したり、時には膿がたまっていたりします。この場合は、皮下での内圧が上昇しとても痛むので、専門の医療機関で排膿してもらう必要があります。
一般的には第1中足骨頭(拇趾球)に発生する事が多いですが、バドミントンでは踵部(かかと)や第2・3中足骨頭部に多く発生します。競技特性やバドミントン選手の足が開帳足や扁平回内足を呈しているのに起因しているのではないでしょうか。
現場での応急処置は、①衛生管理、②ドレッシング(被覆)です。
1). 2~3分ほど流水で患部を洗い流します。創部はもちろんですが、皮膚が残っている場合は黄色ブドウ球菌などの常在菌が多く存在しますので、皮膚もしっかりと洗い流します。
2). 創部を皮膚で覆うようにしその上からプラスモイストでドレッシング(被覆)します。皮膚と創部が擦れて痛い場合はワセリンなどを塗るのも一つの方法です。また、ガーゼなどは線維の一部が皮膚に癒着しますので使わない方がよいと思います。
●プラスモイストを適当な大きさに切り、皮膚に直接あてがいます。
3).ドレッシングしたプラスモイストをテガターム(粘着性フィルム)でずれない様に固定します。プレーを継続しなければこの状態に包帯などで被覆して応急処置は終了です。
●サージカルテープなどで止めるよりフィルムを使用した方がドレッシング材がずれにくいです。
4).プレーを継続しなければならない場合はテガタームの上からライトテープでさらにずれないように固定します。
●ライトテープは、後ろから前へ貼るとはがれにくいです。また、足趾の付け根まで巻いた方がずれにくいです。
5).踵の場合は、その上からヒールカップを装着します。
●ドレッシング材をテーピングで固定した上から使用します。
何故、皮膚がめくれるかは用具の問題、選手の足の運び方、汗をかきやすいなど様々です。その中でも特に、中敷き(インソール)の材質や形状に着目し試行錯誤を重ねている途中です。また、良い結果が得られれば報告させていただきます。
ふくらはぎは、下腿三頭筋とよばれ3つの筋から構成されます。1つはヒラメ筋、残り2つが腓腹筋内側頭と外側頭です。ヒラメ筋はカカトの骨からアキレス腱を介し膝関節をまたがずに脛骨・腓骨の後面に着いています。腓腹筋は同様にアキレス腱を介し膝関節をまたぎ大腿骨後面に着いています。
膝関節を曲げた状態での足関節底屈をヒラメ筋が、膝関節を伸ばした状態での足関節底屈を腓腹筋が主に担っています。
●右脚を後ろから見た図です
ふくらはぎの肉離れは、足関節背屈位で筋が伸ばされている状態で筋が急速に縮もうとした時に筋と筋膜が引き剥がされるように受傷します。
また、筋が収縮していている状態からさらに収縮して過収縮状態になった際に筋内腱が剥がされるように受傷します。
臨床経験上では、その発生機序が引っ張られて受傷する伸長型(私が勝手にそう呼んでいます)と、過収縮をして受傷する収縮型(私が勝手にそう呼んでいます)に分類できるように思います。
伸長型は腓腹筋内側頭と外側頭の間にある矢状腱板やその下のヒラメ筋膜との間に好発しているように思います。また、収縮型は外側頭の近位(膝窩部)に多く発症している印象です。
●図左(健側):腓腹筋が三角形の頂点を右にさしながら確認できます。
●図右(患側):三角形の頂点が歪み、筋膜が剥がされている様子が確認できます。
選手の声として、「最初筋肉痛と思ったが段々と痛くなってきた」や「筋肉痛が肉離れに変わった」などと聞きます。Ⅰ度損傷の肉離れは、張りや軽い痛みを感じることが多く、肉離れと勘違いされることが良くあります。3日以上痛みや張りが持続する時は、肉離れなどの損傷に注意しながら対処にあたります。
軽度の肉離れの処置方法は、2日程度は非荷重で安静にし、患部にテーピングやバンデージで圧迫をします。その後は、超音波を照射し過剰な肉芽細胞の増殖を抑え筋が瘢痕化する(硬くなる)のを防止します。また、徐々に筋に長軸方向への柔軟性を取り戻すためのストレッチングを開始します。
●図左:下腿三頭筋のストレッチング。膝を伸ばして行います。
●図右:ヒラメ筋のストレッチング。膝を曲げて行います。
ふくらはぎの柔軟性が回復し、足首の背屈可動域が獲得されてからは、筋トレを開始します。非荷重から始め荷重を徐々にかけていきます。そして、歩行→軽いジョグ→ラン→専門的動作へと段階的に強度を上げていきます。
受傷直後は、RICESを中心に処置にあたりますが4日目以降は、積極的に患部に超音波をあて肉芽細胞の過形成を抑制し、ストレッチングにより正しい線維パターンの再形成を促します。
肉離れは、数日から数週間で自然と痛みが消失します。しかし、鎮痛後の加療をしない場合は筋が線維化(硬くなる)してしまったり、線維パターンが乱れた状態で再生してしまう事が多いです。また、筋委縮(筋が痩せてします)をおこす場合もあり、その後の競技に悪影響を残します。
重要な事は、痛みがなくなれば治ったと思うのではなく、その後のケアをしなければ痛みが引いていても再発するリスクがとても高いということです。
●図左:再発を繰り返している左下腿三頭筋です。筋が萎縮しています。
●図右:萎縮した筋のエコー画像です。線維パターンが消失しています。
*下腿三頭筋の予防的テーピングの方法は、「テーピングについて」の項で紹介しています。
アキレス腱は、人体最大の腱で下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)から始まり踵骨(かかとの骨)で終わっています。足先を下に向けるように足関節に作用します。
アキレス腱そのものが炎症を起こすケガをアキレス腱炎と呼びます。アキレス腱炎と似たケガには、
①アキレス腱が切れてしまう「アキレス腱断裂」
②アキレス腱の周りにある脂肪体や滑液包が炎症を起こす「アキレス腱周囲炎」
③アキレス腱と皮膚の間にある滑液包が腫れてしまう「Pump Bump」
④足首の骨(距骨)に過剰骨が存在する「三角骨障害」
などがあります。
それぞれのケガには特徴があり、ケガを判断する際にしっかりと鑑別する事が大切です。
アキレス腱断裂
アキレス腱断裂は、叩打感を伴い(後ろから叩かれた様な感じ)断裂します。大概、アキレス腱が切れた瞬間に選手は後ろを振り返る様に倒れます。
患部には陥凹があり、時間の経過につれ皮下に出血斑が出現します。
一般的にThompson testが陽性になりますが、完全に断裂していない場合や足底筋(下腿三頭筋に平行する細い筋)の影響によりtestが陰性になったり、歩行が可能な場合もあり注意が必要です。
●Thompson test ふくらはぎを掴むと、患側(左)では足首が動かないですが、健側(右)では足首が動きます。図では腹臥位・膝関節屈曲位で行っていますが膝関節伸展位で行うこともあります。
バドミントンでは他競技と比べアキレス腱断裂の発生頻度は高いと思います。また、私が経験した症例での男女比は、女子の方が多かったです。
アキレス腱炎
アキレス腱周囲炎は、アキレス腱の踵骨付近やアキレス腱そのものよりも深い場所に痛みを訴えます。滑液包や脂肪体の炎症と考えられています。足関節を強制的に底屈位にしたり自動運動での底屈で痛みが増します。また、アキレス腱付着部症(enthesis)では触れただけでも鋭い痛みを訴えます。パットで患部に靴が触れない様にしたり工夫します。
●アキレス腱と骨や皮膚の間には滑空をよくするためにいくつもの滑液包が存在します。また、アキレス腱と脛骨の後面の間には、隙間を埋めるように脂肪体があります。
Pump Bump
Pump Bumpは滑液包が腫れた状態で、痛みを伴う事もありますが慢性化すると腫れているけれど痛くない選手もいます。町中でハイヒールを履いている女性の踵にもよく確認できます。
●Pump Bump 写真は80歳代の女性です。痛みは全くないそうです。
●Pump Bumpの新鮮例 高校1年生で学校指定の革靴を履いて、約1か月後に発症。
●靴などの用具を変えて数週間後に痛くなるケースが多く、新鮮 症状はとても痛みます。
*対処方法は、テーピングの項目で紹介しています。
三角骨障害
三角骨障害は足関節を構成している距骨の後方(距骨外側突起)が大きかったり、多かったり(過剰骨)しその骨が陥頓(挟まること)し炎症を起こします。エコーでは確認できませんがレントゲンでははっきりとわかります。
足関節の底屈動作がとても重要な競技(競泳、シンクロ、器械体操、バレエなど)の選手は、手術で切除する事を前提で施術にあたります。そうでない競技の選手は痛みをモニターしながらできるだけ保存療法(手術しない)で対処していきます。
●模型ではわかりにくいですが三角骨障害になる突起部はやや外側にあります。
●圧痛はアキレス腱の外側深部に限局してあります。
●大学3年生男子バドミントン選手の足部のレントゲン写真です。過剰骨である三角骨は、大抵は左右両側に存在します。また、痛みがない場合もあります。
アキレス腱炎の予防方法
一般的に腱の炎症を引き起こす原因として擦れる(friction),伸ばされる(stretching),挟まる・衝突する(impingement)が主です。
アキレス腱炎の発症原因は、「伸ばされる(stretching)」がもっとも多いのではないでしょうか。
アキレス腱は下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)の力を踵骨に伝える組織なので、下腿三頭筋に硬さが出ると腱が伸長され炎症の原因になります。
また、バドミントンではアキレス腱の内側に痛みを訴えるケースが多く、アライメントに問題のある選手は、サイドへの蹴り出した足が回内してしまい内側が特に伸長されてしまうのではないでしょうか。
●図左:高校3年生女子バドミントン選手です。アキレス腱がびまん状に(もわーと)腫れているのが確認できます。
●図中央:エコー画像です。この選手は、両方のアキレス腱に炎症が見られますが、右(画面では左)のアキレス腱が特に肥厚化しており、上半分に低エコー画像が確認できました。腱炎の画像は、アキレス腱に限らず膝蓋腱でもこの様に2層構造にうつります。
●図右:蹴り出しの際に左足が回内し倒れてしまっている悪い例。
対処方法は、練習後のアイシング、超音波の照射、下腿三頭筋のストレッチング2種類、また、ヒールカップなどの装具を使用しアキレス腱への伸長ストレスを緩和します。
●図左:ヒラメ筋のストレッチング、図右:腓腹筋のストレッチング
●図左:衝撃吸収用のヒールカップ、図右:補高用のヒールウエッジです。どちらか選手が使用しやすい方をすすめます。
また、医学的には、アキレス腱炎がアキレス腱断裂の原因にはならないというのが定説です。しかし、腱炎も断裂もアキレス腱の硬さが発症原因の一つなので、腱炎を起こしている選手は断裂のリスクもあるという事を念頭に置いて対処しなければいけないと思います。
手や指が痺れるのは、痺れの部位を支配している神経に何らかの問題が発生しているからです。症状としての痺れは、痛み(神経痛)とは分けて考えなければいけません。
神経には、中枢神経と末梢神経に分類されます。
中枢神経は、脳と脊髄です。
末梢神経は、脊髄の各分節から伸びる感覚神経・運動神経・自律神経(交感神経・副交感神経)です。
また、神経症状は、①知覚鈍麻(知覚麻痺)②異常知覚(痺れ・冷感など)③運動麻痺(筋力低下)④炎症(神経痛)があります。
中枢神経に起因する症状の特徴は、①・②・③で、④の神経痛を伴いません。
また、末梢神経に起因する症状の特徴は、①~④のどれか一つか複数です。
まず、①~④のいずれかの症状があった場合は、原因が中枢神経か末梢神経かの鑑別が必要です。中枢神経に起因する代表的な疾患は、脳卒中です。脳卒中は、脳溢血(出血)・脳梗塞(ラクナ梗塞を含む)・くも膜下出血です。出血性の疾患は、神経症状とともに激しい頭痛を伴います。
脳梗塞の簡易検査には様々な方法があります。中でもBarre sign(バレー徴候)は、簡易で有用です。目を閉じて、手のひらを上に向け両手を体の前に30秒ほど突き出します。手が下がって来たら陽性です。その他には、FAST(Face・Arms・Speech・Time)などが有名です。
その他の、中枢神経に起因する疾患では、脊髄損傷や後縦靭帯骨化症(OPLL)、黄色靭帯骨化症(YOLL)などがあります。いずれも、MRIやCT,レントゲンで確定診断されるのでまず医療機関にて精査する必要があります。
また、心臓病、血管炎、自己免疫疾患や糖尿病などで起こる神経症状もあるので注意が必要です。
末梢神経が原因で起こる原因として、椎間板ヘルニアがあります。椎骨の間にある椎間板の髄核が後方へ飛び出して末梢神経の根っこ(神経根)圧迫し症状が現れます。第5頸椎~第1胸椎の間から出てくる神経をまとめて腕神経叢と呼び、それぞれの分節により支配する領域が異なります。症状は、①~④のどれか一つか複数が出現し、中にはひどく痛みを伴う場合もあります。たいてい頭の位置や首の動かす方向で痛みや症状が憎悪したり軽減したりします。椎間板ヘルニアは、MRIにより鑑別されるのでまず医療機関にて精査する必要があります。
このページでは、これら以外の末梢神経由来の症状について書いていきたいと思います。
バドミントン選手が、ラケットを持たない方の手に痺れを訴えてくることがあります。
特に、女子選手が前腕(肘関節より遠位)の外側(親指側)に症状を訴えてきます。
もちろん神経症状が出現した場合、脳・脊髄の中枢神経や頸椎椎間板ヘルニアなど深刻な疾患がないかを鑑別する必要があります。これらを鑑別するには、現場で行うことができる検査方法(Barre's sign, Jackson testなど)もありますが、やはりMRIなどの画像による判断が確実です。
画像診断で重篤な疾患がないと判断され、前腕に神経症状があるケースについて書いていきます。
バドミントンで前方向のシャトルをボレーする際、男子選手と女子選手では非利き腕の使い方に大きな違いがあります。
●男子選手は左手(非利き腕)を使わず、前のシャトルをボレーする。
●女子選手は、左手(非利き腕)でバランスをとりながら、前のシャトルをボレーすることが多い。
上記の写真は、実業団男子選手と高校生女子選手にフォア前のボレー姿勢を模式的にとってもらったものです。
男子選手は、上肢の筋力が発達しているためか、全身を使ってボレーをせず、女子選手と比べると簡略化したような姿勢で補球しています。
その際、特に、左手(非利き腕)の使い方に違いが出てきます。男子選手は、腕を体側につけたような姿勢で利き腕だけで補球し、女子選手は後方に腕を伸ばし体全体を使って補球をします。
腕や背中に分布している神経は中・下位の頸椎から出ている腕神経叢です。頸椎から鎖骨下を通り肩口から背や胸、腕の前や後ろに延びてきます。また、それぞれの神経は、すべて支配領域が決まっています。
そのため選手が症状を訴える領域でどの神経に問題が発生しているのかを予測できることができます。
今回のケースでは前腕の外側に症状が出現しましたので、筋皮神経に問題が発生していると予想できます。
●筋皮神経の皮膚支配領域は前腕の外側になり指は含まれないです。
●筋皮神経の筋枝は上腕2頭筋の運動に作用し、皮枝は前腕外側の皮膚感覚を支配します。
筋皮神経が筋によって絞扼される姿勢は、肩関節の伸展動作(腕を後ろに伸ばした姿勢、肘関節の屈曲か伸展かはあまり問題になりません)です。
この動作に頸部の反対側への回旋が加わると神経がさらに伸展され症状を悪化させます。
これらの姿勢・動作はまさに女子選手がフォア前のシャトルの捕球動作と合致します。
予防対策としては、こういった動作をしない様にすることです。また、ランジ動作を行う際に寛骨(骨盤の骨)に対して大腿骨が開くように心掛けることが大切です。詳しい説明は、FAI(股関節の痛み)の項で説明したいと思います。
足の甲(足背)に突然の痛みと腫れが現れ、歩くことすらできなくなるほどの激痛を伴う。
痛みは舟状骨周囲が強く、腫れは赤く熱を持っているようだ。
この様な症状で第一に疑うのは疲労骨折です。疲労骨折の確定診断はレントゲンやMRIの画像診断で行います。しかし、骨折がないにも関わらず痛みを訴えるケースがあります。
このページでは、疲労骨折の可能性が画像診断で除外された前提で痛みや神経症状がある場合について話をすすめていきます。
足背側には、足趾を持ち上げたり足首を持ち上げたりする腱が存在します。それらの腱が浮き上がらないようにベルト状の靭帯(伸筋支帯)のようなもので押さえられています。その様な限られたとても狭い空間(管)を腱・神経・血管が通過しています。その部分を靴紐やシューズのベロによって圧迫を受けると神経を圧迫し拇趾と示趾の付け根の間に痺れや痛み、知覚鈍麻が発症します。この障害を前足根管症候群と呼びます。
●伸筋支帯と神経の解剖学的位置 ●神経と拇趾を動かす腱の解剖学的位置
●神経症の現れる部位
また、ガングリオンなどの発生により同様の機序で前足根管症候群は発症します。
ガングリオンとは、内容物がゼリー状の滑液で関節包(滑膜)の一部が局所的に膨らんで腫瘤になったものを言います。ガングリオンは、滑膜が存在する関節や腱鞘周囲であればどこにでも発生します。関節や腱鞘に繰り返し軽微な外力がかかったり、単回数でも大きな外力が加わることで発生します。袋の一部が膨隆しガングリオンが発生します。
ガングリオンが拇趾を動かす腱の周囲に発生し、腱を圧迫したり、近くの神経を圧迫することによって前足根管症候群が発症します。
●高校生女子バドミントン選手の足背に発生したガングリオン。画面ではわかりにくいのですが足背が腫れて盛り上がっています。
●エコーでは、腱と骨に挟まれるようにガングリオン(黒く見える部分)が発生していました。
(皮下になく表面から確認できないガングリオンをオカルトガングリオンと呼びます)
バドミントンでは右が利き腕の選手は、左足の拇趾でコートを蹴り出しますので、拇趾に繰り返しストレスがかかります。他競技と比べるとガングリオンの発生しやすい競技ではないでしょうか。
対策は、一度できたガングリオンは完全になくなることは難しいので、対処療法で経過観察します。頻回に症状が出現する場合は、外科にてガングリオンがある嚢胞の切除も視野に入れます。
対処療法は、ガングリオンが神経を圧迫しないようにラバーパッドで空間を作ります。
また、患部に超音波を照射することも有効です。
●ホームセンターなどで購入できる5㎜厚のラバーパッドを馬蹄形に切り出します。足のサイズに合わせて適当な大きさのものを作成します。
●靴下の中にラバーパッドを直接に入れます。靴下で押さえれば、テープなどをしなくてもパッドがずれるずれる心配がありません。
●装着場所は、ガングリオンが馬蹄形の空間に来るようにあてがいます。
●ほとんどの場合、数週間で痛みは軽快します。痺れが消失するにはもう少し時間がかかるかもしれません。
骨端症って聞きなれない言葉です。成長痛などの呼び方の方が一般的かもしれません。しかし、成長痛と言うと少し誤解を生んでしまうように思います。
骨端とは成長期には成長軟骨が存在しますがそれよりも端の部分の事を言います。この部位には靭帯や腱が付着しておりそれらに引っ張られることにより骨が隆起したり剥がされた状態になります。病名にはオスグッド病やシーバー病など人名が用いられます。
●膝のレントゲン映像です。関節とは別に骨の間に黒い隙間が見えます。これが成長軟骨板です。成長軟骨板より関節側を骨端、反対側を骨幹と呼びます。
骨端症は骨端に何らかの器質的変性が起こった状態を言います。
ケース1: オスグッド病(Osgood Schlutter D)脛骨粗面骨端症
数多くのジュニアスポーツ選手のオスグッド病を経験しました。サッカー、バスケットボール、バレーボール、バドミントン、野球、体操、競泳などの選手が男女問わずこのケガを訴えていました。原因は①競技特性、②太腿前の筋の硬さ、③家系性などが考えられます。
①競技特性から発症動作を考察すると、ダッシュやジャンプで地面に足を強く踏み切ったり、ストップ動作の1歩目の足に多く発症しています。
②成長期はおよそ3年間続きます。この時期をPGA(Peek Growth Age)と呼び、1年間で10cm弱ほど身長が伸び、特に、長管骨(手・足の長い骨)が伸びます。骨に対して筋の発達は遅く、骨の伸びに追いつけなく筋の付着部を引っ張ってしまい骨端にダメージを与えてしまいます。
③研究文献などで詳しく書いてはいないのですが、家系性による発症率の差はあるように思います。
発生部位は脛骨粗面です。この部分が膝蓋腱の牽引により前方へ突出したり、時には遊離し骨片になります。
発症は成長期の過程と関係があり成長軟骨の形態でエピフィーゼス期と呼ばれる時期に多く発症します。
●左図:オスグッド病の発症部位です
●右図:脛骨近位の成長軟骨の変移です。左から軟骨期→アポフィーゼス期→エピフィーゼス期→骨期と成長に伴って変移します。鳥のクチバシの様な形をしている時期がエピフィーゼス期です。
●中学2年生、男子、硬式野球選手です。
●画面左の脛骨粗面が腱の牽引により右(健側)より前に引き出されています。
●小学6年生、女子、体操選手です。
●画面左:健側、画面右:脛骨粗面に隆起が見られ骨の不整列が確認できます。
これらの選手も成長期が終わり骨期に入れば自然と痛みが消失していきます、しかし中には骨片が遊離し骨期になっても持続して痛みを訴えるケースもあります。そのような場合は骨端だけでなく腱に部分断裂や石灰沈着が確認される事もあります。成長期中は太腿前面の筋の柔軟性の向上を目的としたストレッチングや、痛みの酷い時は非荷重のトレーニングを実施します。また、エピフィーゼス期はスキャモンの発育曲線では臓器発達が顕著な時期でスタミナトレーニング(酸素摂取量の向上)を中心にトレーニングプログラムを作成します。
ケース2: SLJ病(Sinding Larsen Jhohanson D)膝蓋骨下端骨端症
SLJ病とは膝のお皿の骨の下端にある骨端症です。発生はオスグッド病と似ています。私的考察ではバドミントン選手の利き足に多いように思います。
SLJ病はお皿(膝蓋骨)の骨端症ですが同時に膝蓋腱の近位にも限局した圧痛があり腱の不全断裂や微少外傷による炎症も同時に発症している炎症があります。成長期を過ぎ骨端が骨化した後も似たような症状が続くのはそのためかもしれません。
また、SLJ病はそのような症状からジャンパー膝(膝蓋腱炎)と間違われることもありますので画像により鑑別しなければいけません。
●中学3年生、女子、バドミントン選手です。
●画面左に膝蓋骨がありその上面を覆うように膝蓋腱があります。お皿の下端(画面中央)に裂離した骨片があります。また膝蓋腱も肥厚化し炎症が確認できます。
●高校2年生、女子、バドミントン選手です。
●画面左(患側):お皿の下端がとんがった状態で骨化しています。
●画面右(健側):患側との比較でお皿を覆っている腱の厚みの違いを確認できます。
対応はオスグッド病と同じです。オスグッド病の発生と比較すると、SLJ病は膝への衝撃が加わわる際に、膝関節がより曲がっている場合に多く発症していると印象があります。バドミントンでは前のシャトルを拾いに行った際にランジ動作でそのような動作を強いられます。その際に足を手前についてしまうと膝がより曲がってしますので注意する必要があります。
●左図:後ろ足が地面をとらえていない為に加速がつかず、前の膝が曲がり上体が突っ込んだ態勢になっている。
●右図:後ろ足で地面をとらえ上体を安定させると前の膝は大きく曲がらない。膝の屈曲角度は理想では130°前後と言われています。
ケース3: シーバー病(Sever D, 踵骨骨端症)
ジュニア期のサッカー選手に好発します。踵の後ろからやや側面に限局した圧痛があります。アキレス腱炎や付着部症、pump bump、足底腱膜炎、踵脂肪褥炎などとの鑑別が必要です。
エコー画像ではアキレス腱炎やpump bump(滑液包炎)との鑑別は可能ですがその他は問診により鑑別していきます。
●アキレス腱と足底腱膜に挟まれている踵骨の後ろ端が骨端です。シーバー病の発症部位です。
●踵と画面上部の白い線筋がアキレス腱です。骨の表面に黒くくぼんで見えるのが成長軟骨です。
●画面左(患側):アキレス腱の付着部の骨端が隆起しています。
●画面右(健側):正常の骨端の様子です。
骨端線が閉鎖するまでの間は予防的に経過観察します。予防方法の1つが、下腿筋群の柔軟性の獲得です。アキレス腱で終わる下腿の筋は下腿三頭筋と呼ばれ3つの筋から成り立ちます。1つはヒラメ筋、残りが腓腹筋です。ヒラメ筋は膝関節をまたがずアキレス腱で停止し、腓腹筋は膝関節の上から始まるアキレス腱で終わっています。
下腿三頭筋の柔軟性を獲得するには、2種類のストレッチングを行う必要があります。膝を伸ばしてアキレス腱を伸ばす方法と膝を曲げてアキレス腱を伸ばす方法です。そのほかでは用具(ヒールカップ)を使用し踵を持ち上げてアキレス腱への負担を軽減します。
●シューズの踵に挿入します。補高の目的と衝撃を吸収します。
離断性骨軟骨炎(OCD)はジュニア期に発症する特有のスポーツ障害です。足首・膝・肘に多く発生します。病名から骨が離断する(ちぎれる)と想像してしまいますが、実際は、軟骨下骨が血流の阻害により無腐性壊死し脱落する状態です。
競技別ではサッカーやバスケットボールのように膝を曲げた状態からの急激なSTOP & GOやカッティング動作で受傷します。投球動作のあるラケット競技や野球では肘の外側の骨に発症します。
症状は特徴的で
①受傷機転がない、
②日常生活ではほとんど痛みがでない、
③プレー中の激しい動きの際にだけ痛みがでる、
④押さえても痛くない、腫れてもいない
などです。
小学高学年から中学前期に多く発症しますが、筋力が未発達なので痛みは強く現れません、中学後期から高校以降に筋力の発達に伴って痛みが増してきます。その時点で初めて医療機関を受診されるケースが多く、病態がすでに進行しているので、ほとんど手術の適用になっていまいます。
早期発見で手術を回避できる事もありますので上記の様な症状がある場合は、できるだけ早く医療機関にかかる事をおすすめします。しかしOCDはレントゲンでは見つけにくい場合もあります、できればMRIで確定診断を受けられる方がいいのではないかと思います。
ケース1: 大腿骨内顆離断性骨軟骨炎
高校1年生男子バスケットボール選手です。新1年生の入部時スクリーニングで膝の痛みを訴えていました。問診票では有痛性分裂膝蓋骨と申告されていたのですが、疼痛部と合致しなかったので徒手検査とエコー検査をおこないました。
徒手検査では所見はありませんでした。ROM検査では非荷重での伸展・屈曲とも問題ありませんでしたが、荷重位では屈曲130°で痛みが大腿骨内顆に出現しました。エコーでは内側の膝蓋-大腿関節の軟骨・下骨に連続性の不整列が確認できました。
OCDを疑い総合病院にて受診しOCDの確定診断を受け今後の対応を顧問の先生と協議しました。
●膝を曲げ関節軟骨が露出した状態でエコーをとりました。
●画面中央の黒い部分が軟骨です。表面のきれいなカーブがなくなっています。また、その下の白い線の下骨の表面も不整列が確認できます。
●膝を曲げた状態で膝蓋‐大腿関節を撮影しました。
●エコー画像で画面左の軟骨(黒色)と下骨(白色)の不整列が確認できます。
●MRI画像です。画面左が矢状断(前後に切った)、右が前額断(左右に切った)映像です。
●内顆の関節面に下骨の欠損が確認できます。
ケース2:大腿骨内顆離断性骨軟骨炎
中学1年男子サッカー選手です。日常では痛みがないのですがサッカーをすると膝に痛みが現れるという事で来院されました。症状が上記に合致したので、徒手検査で他のケガの可能性を除いておいてエコーをとりました。
●図左:画面左(健側)の関節軟骨と画面右(患側)です。患側の軟骨と下骨が損傷しているのがわかります。
●図右:患側の拡大した映像です。
病態と予後の説明をご両親にさせていただきました。最初はとまどっておられましたが、理解していただき総合病院で診察および手術をされました。
結果的に手術が必要となりましたが、早期の発見だったので低侵襲な方法を選択することができました。
●手術後4か月のエコーです。軟骨と下骨がきれいに再生されています。
ケース3:上腕骨小頭離断性骨軟骨炎
高校1年女子バドミントン選手です。日常では痛みがないのですが、新入生スクリーニングにで肘関節の屈曲が健側と比較して−5°、伸展が-5°であったので精査しました。
既往歴には、肘関節のケガは未記入だったのでが、問診をすると中学の頃に、たびたび肘が腫れてはアイシングをしていたということでした。
エコーでは、肘関節屈曲位・伸展位とも小頭の軟骨下骨に何かしらの損傷が確認され、ROMの低下があったので医療機関にて精査していただきました。
●屈曲位での上腕骨小頭のエコー画像。 ●伸展位でのエコー画像。
●両映像とも小頭に軟骨下骨の損傷が確認できます。
●患側(左)と健側(右)の比較です。
●CTでは小頭と肘頭にも遊離した骨片が確認されました。
●診断は、OCD(遊離期)でした。
大会の時期を考慮し、遊離した骨片を取り除く手術を行っていただきました。
●関節鏡の進入路は4か所でした。術後で浮腫などがありましたが、すぐに軽快しました。
遊離した骨片を取り除くだけの手術だったので、1か月後の試合には出場できるように準備しました。
術後2週間で、屈曲は-10°程残りましたが、伸展は+5°まで回復し、握力も術前とほぼ同程度まで回復しました。なんとか無事に試合に出場を果たしました。
病態や手術方法の違いにより経過が異なりますので、担当医とよく相談をして下さい。
ジュニア期の捻挫や骨折は成人のとは異なった症状や予後になる場合が多いので慎重に対応する必要があります。
ジュニア期の身体的特徴は
①骨化が十分になされていない
②個で成長年齢が異なる
③筋が未発達の間は痛みが少ないが、筋の発達に伴い痛みを訴える
事がある
などです。
捻挫と骨折
捻挫は、関節が外力により生理的可動域をこえて強制的に関節運動を強いられ、その際に関節を保護している靭帯を損傷してしまうケガの事です。
しかしジュニア期の関節に近い骨は柔らかく靭帯の牽引に負けてしまいます。その結果、靭帯損傷ではなく骨折をしているケースがあります。
受傷時の痛みも成人ほど強くなく、また腫れや皮下溢血もほとんどないのでそのまま放置される事が多いようです。
しかし、高校生以上で筋力が発達してくると、関節に大きな力がかかる様になり不安定性や痛みを訴えるケースがあります。
私は、トレーナーとして高校生女子バドミントンチームや男子バスケットボールチームにかかわっており、新入部員のメディカルチェックをする際に、必ず足関節外側靭帯の状態を確認するようにしています。
結果、かなりの頻度で足の外くるぶし(腓骨外果)に骨折をした痕跡を見つける事があります。
●高校女子バドミントン選手です。足関節の不安定性を訴えていました。
●外果の先端が分離している様子が確認できます。
●別の選手の外果です。画面左が患側です。靭帯の牽引によって外果の先端が欠けています。
この様なケースでは、突然の痛みや腫れを選手が訴えてくることが少なくありません。
試合期であれば、本番のパフォーマンスに影響が出ますので痛みがなくともブレースを着用し、足関節の保護に努めるように指導します。
●シグマックス社製のブレースです。その他、ZAMSTもよる利用します。
バドミントン選手は、テーピングやサポーターの着用を嫌がることがあるので、ぶっつけ本番で使用しないで事前より着用させて慣れさせることも必要です。
肉離れと裂離骨折
◆座骨結節の裂離骨折
●坐骨結節の裂離骨折です。太腿の後面の筋群の牽引により骨端が剥がされた状態になり骨折しています。成人では肉離れが好発する部位です。
座骨結節は大腿後面の筋群(ハムストリングス:半腱様筋と大腿2頭筋)が付着する骨起始です。
高校1年生女子バドミントン選手です。ランジをした際におしりの付け根が痛くなったと訴えてきました。肉離れのようにも思いましたが年齢を考慮し骨折を疑いレントゲンをオーダーしました。
◆下前腸骨棘の裂離骨折
●上記のエコー像は、左が患側、右が健側です。一見右の映像の方が骨の不整列があるように思われますが、成長軟骨の映り具合がアーチファクトとなりバラバラになっているように見えます。
●左の映像が縦に線が明瞭に確認できるのが骨折線です。
AIIS(下前腸骨棘)は、大腿直筋が付着する骨起始です。
中学2年生の男子サッカー選手です。相手選手と交錯し左足を後方へ取られたそうです。
股関節が痛むと来院されましたが。股関節の内外旋障害はなく。自動SLRで痛みが誘発しました。
圧痛がAIIS(下前踵骨棘)に限局していたので、筋腱移行部の損傷か裂離骨折を疑いエコーを施行しました。
●示しているのがAIISです。 ●エコーでAIISを長軸方向に撮影しました。
●受傷後1か月のエコー画像です。骨折部にリモデリングによる仮骨形成が確認できます。
若年型の骨折
◆Colles骨折と橈骨遠位端骨端線離開
ジュニア期の骨折の特徴は、骨が柔らかいために完全にポキッと折れないで若木骨折になるケースと、骨には傷がなく成長線が離解するように折れるケースがあります。
●橈骨遠位端骨端線離解です。成人ではコーレス骨折と呼ばれます。
●左図:画面左の骨の先端がやや下に脱落しています。この骨と長い骨の間に見える黒い隙間が成長線(軟骨)になります。
●成人のコーレス骨折です。完全に折れている様子がわかります。
この様に小児の骨折は外観では大きな変形がなく、治癒期間も早期(成人の半分)なために軽く考えがちですが成長線の損傷(骨折)は、後の成長障害の原因になりますので慎重に対応すべきです。
◆尺骨脱臼骨折と成長軟骨に及んだ骨折
同様に成長軟骨を横断しながら折れるSalter-Harrisの分類にも注意が必要です。
●12歳女子体操選手の肘関節後方脱臼骨折のレントゲン像です。
●バーより落下し左手をついて受傷。
●左図:健側の肘関節レントゲン正面像です。
●右図:整復後の患側のレントゲン正面像です。外側上顆から成長軟骨を縦断するように走る骨折線が確認できます。
成長軟骨を縦断または、横断する形での成長期前特有の骨折をSalter-Harrisと呼び、他の骨折とは区別して考えます。
将来、骨の成長障害の原因になるため、整復や固定は伸長を期します。これらの骨折の疑いがある場合は、必ず医療機関にて処置をしていただいております。
スポーツの後や発赤や熱感をともなった炎症(痛み)症状の時にはアイシングが有効です。ここでは一般的なアイシングの方法をご紹介します。
①アイスパックと氷を用意します。
②氷を入れます。あまり多く入れ過ぎず、アイスパックの底面を満たすぐらいで十分です。
③少量の水を入れます。氷が湿る程度で結構です。
④パック内の空気を抜くようにジャバラを絞り、アイスパックの底面に氷がまんべんなく行き渡るように整えます。
⑤患部に直接アイスパックを置きます。
⑥バンデージ(弾性包帯)などで圧迫固定をし15分程度そのままにしておきます。
*打撲の場合は患部を伸ばして、肉離れの場合は患部を縮めて固定します。
●図左:大腿前面の筋(大腿四頭筋)肉離れのアイシングの方法
●図右:大腿前面打撲のアイシングの方法
テーピング用テープには様々な種類があり、その用途もいろいろです。
材質やテープの幅、厚みに違がいあり、また、使用される粘着剤の種類や粘着力にも違いがあります。
テーピングを施行する部位やケガの種類(捻挫や打撲などの違い)、重症度、競技種目によってこれらのテープを上手く使い分ける必要があります。
非伸縮テープ
捻挫した関節を固定するために使用します。コットンテープと呼ばれ手で簡単に裂くことができます。粘着剤はシンナー系で、長時間貼ると皮膚がかぶれて赤くなったり、水ぶくれになる事があるので注意が必要です。
様々な幅があり、足関節には1.5インチ(38㎜)、膝関節には2インチ(51㎜)、手指の関節にはもっと幅の狭いテープを使用します。スポーツの現場では最もよく使用されるテープです。
●足関節に施行した38㎜非伸縮テープの1例
伸縮テープ(ハードタイプ)
固定をすると関節の動きを制限してしまい競技に影響を与えるような場合に(例:サッカー選手の足関節)や、粘着力が必要な場合(例:剣道・柔道などの素足で行う競技選手の足部)などに使用します。
生地が分厚く粘着力がとても強いです。手で裂くことは不可能でハサミを使用します。
主に2インチ(51㎜)と3インチ(76㎜)を膝関節の固定や大腿部の圧迫に使用します。シンナー系の粘着剤ですので長時間の使用には注意が必要です。
●足関節の捻挫再発予防のテーピングの1例
ライトテープ
薄手の伸縮テープです。粘着力が弱く固定力はあまり強くないのですが、テープの浮きを押さえたり、皮膚の弱い選手に直接粘着力の強いテープが触れない様にしたい時に使用します。とても使い勝手が良く現場では重宝します。例えば、足関節内反捻挫の予防テーピングを巻く際、足にすごく汗をかく選手がいるのですが、テーピングが汗でめくれないようにライトテープで押さえます。
テープ幅は主に2インチ(51㎜)を使用します。
●足関節の非伸縮テープをライトテープで押さえている1例
キネシオテープ
アクリル系の粘着剤を使用した伸縮テープです。アクリル系の粘着剤は皮膚に優しく、シンナー系のそれと比べるとかぶれにくいので長時間貼る事ができます。しかし、水分に弱く汗で剥がれやすくなります。アクリルが体熱で溶けて時間が経過すると粘着力が増すので、運動の直前に貼るとテープが簡単に剥がれてしまいます。テープを貼るタイミングを工夫する必要があります。
DC(Dr. of Chiropractic)の加瀬建造先生がアメリカで開発された、いわゆる人工筋肉テープと呼ばれるものです。筋肉の働きをサポートする目的で筋の走行に沿って貼っていきます。日本では、マラソン選手などが膝まわりなどに貼りテレビで放映されメジャーになりました。
もともとはこのような経緯で日本に逆輸入され、筋の走行に沿って貼られていましたが、アクリル粘着剤の用途が多様なのでアンダーラップやライトテープのようにも使われるようになりました。
25㎜や50㎜、75㎜などテープ幅がいろいろあるので部位や用途に合わせて使い分けます。
●テーピングの際に非伸縮テープと皮膚が直接触れない様にアンダーラップの上にキネシオテープを巻いた1例
●肘の外側上顆炎のキネシオテープの1例
自着包帯
包帯が互いに粘着しますが皮膚とは粘着しないので、皮膚への負担がかなり少ないです。また、テーピングに比べ圧迫感も少ないので、再発予防の圧迫や固定に使用します。バスケットボール選手やバレーボール選手は、足関節捻挫の再発予防の際も強い固定を要望する事が多いのですが、バドミントン選手は強い固定を嫌いますので使用頻度が高いです。
また、足関節の痛みで腓骨筋腱炎や後脛骨筋腱炎などの腱の炎症による痛みは、皮膚を粘着剤で固定すると痛み増すことがよくあるのでそういった場合の固定にも使用します。
包帯内に粘着用のゴムが含まれるので、ラテックスアレルギーの既往がある選手には使用できません。
写真は2インチ(51㎜)と3インチ(76㎜)の自着包帯ですが、他にも4インチ(100㎜)などもあります。
足関節の固定やふくらはぎの筋の圧迫には2インチを、大腿部の筋の圧迫には3インチを使用します。
●腓腹筋肉離れの再発予防の1例
アンダーラップとレースパッド
皮膚を保護するドレッシング剤です。アンダーラップは皮膚全体を覆うために使用します。レースパッドは腱や関節の凸部などの擦れやすい場所にワセリンを塗った後に使用します。
アンダーラップを使用してのテーピングは、直接皮膚に巻いた場合より固定力が弱くなります。一般的には、皮膚に粘着スプレーを噴き直接テーピングを施行します。
●足関節におけるレースパッドとアンダーラップの施行例
その他上記のテープ以外にも様々な種類のものが各メーカーから発売されています。今までは白色やベージュ色など地味なものが多かったのですが、チームカラーに合わせてテープの色を選んだり、選手の要望で自身のラッキーカラーを貼ったりする事もあります。
●KTテープ:伸縮テープです。キネシオテープと同じアクリル系粘着剤を使用しています。キネシオテープよりも伸長し、カラフルな色のバリエーションがあります。
●膝蓋骨外反抑制用のテープの1例
ふくらはぎの筋(下腿3頭筋)の肉離れを受傷した際は、まずRICES(Rest:安静,Icing:冷脚,Compression:圧迫,Elevation:拳上,Suport:固定)を行います。2~3日間のRICESの後に、段階的に競技復帰に向けたアスリハを開始します。
アスリハの中~後期には競技的動作をプログラムに加えますが、その際に患部に不安が残る場合、テーピングやバンデージで圧迫をしトレーニングをする事があります。
使用する材料
①1.5インチ(38㎜)非伸縮テープ
②アンダーラップ
③2インチ(51㎜)ライトテープ、もしくは2インチ(51㎜)自着包帯
●キネシオテープ20cmに切り、半分ほどで2つに裂いたものを足関節背屈ブロックで使う場合もあります。
テーピングの順序(伸縮テープによる背屈ブロックを加えた例)
①痛みの程度や足関節の固定の強さを決定し、関節の角度をセットアップします。注意する点は必ず足関節が下を向いている(底屈位)でセットアップします。足関節底屈位を強調するほどテーピングの緊張が増します。
②キネシオテープで足関節背屈ブロックをします。踵から始めアキレス腱で終わります。テープの引っ張り具合により固定力が変わります。強く引っ張ると固定力が増します。
③患部を中心にアンダーラップを巻いていきます。
④腓腹筋の外と内側にアンカーテープを縦方向に貼ります。
⑤内・外側のアンカーテープを斜めに被せるように下から順に左右交互に交差させながら上まで貼っていきます。テープの目的は患部の圧迫です。
⑥その上から、横方向のテープを下から順に貼っていきます。テープの目的は、さらなる患部の圧迫です。
⑦圧迫テープが剥がれないようにアンカーテープを縦方向に貼ります。
8圧迫テープは前方がオープンな状態ですぐとれてしますので、ライトテープで圧迫テープを押さえていきます。ライトテープの代わりに自着包帯で押さえる方法もあります。自着包帯のほうが圧迫力は弱く感じます。
●前から見ると圧迫テープはつながっていません
⑨上までライトテープを巻きあげて前でテープを終えるようにして終了です。巻き終えたなら、必ず選手に強さや動きにくさ、痛み・違和感がないかを確認します。
注意点
●固定肢位は足関節底屈位で行う。
●関節の位置やテープの張力はケガの状態や練習内容で臨機応変に対応する。
●巻き終えた後に、必ず選手に違和感などがないか確認をする。