【症例の紹介】
肘の関節は、伸ばす(伸展)・曲げる(屈曲)・内に回す(回内)・外に回す(回外)のように動きます。また、橈骨・尺骨・上腕骨の3つの骨からなりその周囲の関節包と靭帯で動きを制動されています。正常な肘関節の運動可動域は屈曲150°以上、伸展0~5°と言われています。これらの範囲以上で動く場合は柔らかいというよりも関節弛緩性(関節の緩さ)が高いと言います。
逆に可動範囲が少ない場合は、関節を構成する組織に何らかの器質的変性が起きていると考えられます。それらの骨や靭帯が関節を動かすときに詰まったり引っかかったりし運動の制限因子になります。
例えばタンスを壁に押し付けようとした際に、壁とタンスの間に何かありそれが詰まってそれ以上に動かせないや、タンスの手前で絨毯が引っ張って動かせない様なことと同じです。
ケース1:変形性肘関節症
50歳代の男性です。職業は自動車整備士です。右肘が痛く曲げ伸ばしが困難になり来院されました。整形外科でヒアルロン酸を関節注射されていたそうですが改善しなかったそうです。
関節可動域を計測したところ、屈曲100°、伸展-10°、どちらも痛みを伴っていました。徒手検査ではCozen test(+), Mill's test(-), 屈曲抵抗テスト(‐)、外反ストレステスト(‐)、内反ストレステスト(‐)でした。
外側上顆炎も示唆されましたが可動域減退の理由とは考えられなかったのでエコーで関節の状態を確認しました。
●肘関節屈曲位で上腕骨小頭をエコーで観察しました。
小頭に軟骨と軟骨下骨に変性があり、橈骨頭にも変形が確認できました。
肘関節は120°曲げられないとお箸で食べ物を口に運べなくなったりと日常生活に支障をきたします。また、就労にも影響があるので総合的に考え手術をすすめました。
総合病院で過剰に形成された骨を切除する手術を受けられました。術後は関節可動域が屈曲120°、伸展-5°まで回復されました。痛みはほとんど消失しADLにも影響がないようです。
現在は、ROM訓練の継続と外側上顆炎の施術を行っています。
●手術後の瘡部。
●手術後の可動域の計測。
(まとめ)
整形外科レベルの手術は、必ずしなければならないというよりは、患者さんのADL(日常生活動作)の低下具合を考慮して判断します。
このケースでは肘関節の屈曲可動域が120°を確保できていませんでしたので食事さえも不便な状態でした。手術の結果、120°以上に肘が曲がるようになり喜んでおられました。
可動域検査(ROM)は、ADLにとってとても重要な評価手段の1つではないかと思います。