【症例の紹介】
膝に水が溜まって痛いと訴える患者さんが多く来院されます。そういった患者さんは水を抜くとクセになるから抜かないと言われます。水が溜まるのは症状であって原因ではありません。何かの原因でその結果水が溜まっているのです。水を抜いてもすぐに溜まるのは原因が解決されていないからです。
何故、水が溜まるのでしょうか?一言でいえば関節内に炎症があるからです。
炎症と言っても原因はさまざまです。関節内に細菌が繁殖して水が溜まる感染性関節炎は、小児に多く発生し微熱を伴います。早期の対処をしなければ重篤な状態に陥ることもあります。関節水腫の糖度を調べると血糖と比較し関節水腫の糖度が著しく低い場合は細菌の繁殖を疑います。
老化が原因で起こる関節水腫には偽通風があります。関節内にピロリン酸カルシウムが蓄積しそれが何かの拍子に関節内に拡散し、拡散したピロリン酸カルシウムを免疫が攻撃し炎症を引き起こします。痛風も同様のメカニズムで発症します。痛風は尿酸結晶が関節内に拡散します。痛風は男性に多く小さい関節に多く発症すると言われていますが偽通風は肘や膝などの比較的大きな関節に発症します。関節水腫の検査でピロリン酸カルシウムが検出されれば偽通風の疑いが高まります、また血液検査で尿酸値が高ければ痛風の疑いがあります。これらの関節炎の特徴は、発赤・熱感・浮腫・自発痛です。赤くはれ上がり、触れると熱を感じ、就寝中に痛みが増すようであればとても疑わしいです。
関節リウマチもまた関節内水腫の原因になります。膠原病のひとつで女性に多く対側、2関節以上の関節に同時に発症します。私が経験した患者さんは、水腫を抜いてもすぐに同量溜まり、引いたと思うと反対側の関節に再び溜まるという具合でした。整形外科では変形性との診断でしたが血液検査をしていただき関節リウマチの診断を頂きました。その後は専門医にかかられ状態が寛解しておられます。
ぶつけたや転んだなどの外傷がなく、また上記の様な原因がないにも関わらず水腫が発症するのは何が原因なのでしょうか。私は、滑膜炎ではないかと思っています。滑膜とは関節を覆っている関節包の内側の膜で滑らかで関節運動をスムーズに行えるように補助しています。
●膝の内側から見た模式図です。骨(Femur)と骨(Tibia)の間やお皿(Patella)の裏側にある赤い袋状のものが滑膜です。Swellingとは腫脹と言う意味です。水が溜まると滑膜が伸びお皿の上がブヨブヨしたりカンカンした状態で膨れます。
この滑膜が年齢とともに滑らかな表面にヒダヒダが形成され摩擦を起こしやすくなります。また、滑膜には免疫をつかさどる細胞が多く存在し炎症を起こすと素早く反応します。炎症が起こるとタンパク質濃度が高くなり浸透圧を調節するために体液を多く循環させ濃度を調和させます。そのために関節内に水が溜まります。炎症が引くと水は自然と吸収され元の状態に戻ります。
●ピンク色の滑膜にヒダが形成されている模式図です。
ケース1:関節水腫(滑膜炎ではないかと疑われたケース)
70歳代女性です。山登りの3日後に太腿前に張りを感じ来院されました。
視診ではお皿の上にぼんやりとした膨らみがあり皺がなくなっておられました。発赤・熱感はありませんでした。徒手検査で前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靭帯、半月板損傷の可能性を消去しエコー画像を確認しました。
エコーでは関節内に液体が確認できました。
●画面右上にお皿の上端があり、画面中央に大腿骨が白い線で見えます。その上に黒い塊で描出されているのが関節水腫です。
山登りで膝の曲げ伸ばしを繰り返したことにより滑膜のヒダが互いに擦れ合い炎症が起きたのではないかと推測しました。施術は膝蓋上嚢に超音波を照射し消炎させ、お皿を誘導的に動かし膝蓋大腿関節の滑らかな動きを獲得するようにしました。およそ1か月ほどで水腫が消失し、現在は関節可動域も100%回復しました。
その他:ベーカー嚢胞
ベーカー嚢胞は膝の裏に溜まる水のことで半腱様筋と腓腹筋の間にある滑液包が前にある膝蓋上嚢と交通しているためにおこる状態と考えられています。特に、気にする事はないのですが関節リウマチによる水腫との鑑別が必要になります。不自由さを感じた場合は、整形外科で水を抜かれる患者さんもおられます。
●膝の裏、内側を描出しています。
●丸く黒く描出されているのがベーカー嚢胞です。画面右に三角形をした腓腹筋が見えその上には半腱様筋が薄く見えています。