【症例の紹介】
ジュニア期の捻挫や骨折は成人のとは異なった症状や予後になる場合が多いので慎重に対応する必要があります。
ジュニア期の身体的特徴は
①骨化が十分になされていない
②個で成長年齢が異なる
③筋が未発達の間は痛みが少ないが、筋の発達に伴い痛みを訴える
事がある
などです。
捻挫と骨折
捻挫は、関節が外力により生理的可動域をこえて強制的に関節運動を強いられ、その際に関節を保護している靭帯を損傷してしまうケガの事です。
しかしジュニア期の関節に近い骨は柔らかく靭帯の牽引に負けてしまいます。その結果、靭帯損傷ではなく骨折をしているケースがあります。
受傷時の痛みも成人ほど強くなく、また腫れや皮下溢血もほとんどないのでそのまま放置される事が多いようです。
しかし、高校生以上で筋力が発達してくると、関節に大きな力がかかる様になり不安定性や痛みを訴えるケースがあります。
私は、トレーナーとして高校生女子バドミントンチームや男子バスケットボールチームにかかわっており、新入部員のメディカルチェックをする際に、必ず足関節外側靭帯の状態を確認するようにしています。
結果、かなりの頻度で足の外くるぶし(腓骨外果)に骨折をした痕跡を見つける事があります。
●高校女子バドミントン選手です。足関節の不安定性を訴えていました。
●外果の先端が分離している様子が確認できます。
●別の選手の外果です。画面左が患側です。靭帯の牽引によって外果の先端が欠けています。
この様なケースでは、突然の痛みや腫れを選手が訴えてくることが少なくありません。
試合期であれば、本番のパフォーマンスに影響が出ますので痛みがなくともブレースを着用し、足関節の保護に努めるように指導します。
●シグマックス社製のブレースです。その他、ZAMSTもよる利用します。
バドミントン選手は、テーピングやサポーターの着用を嫌がることがあるので、ぶっつけ本番で使用しないで事前より着用させて慣れさせることも必要です。
肉離れと裂離骨折
◆座骨結節の裂離骨折
●坐骨結節の裂離骨折です。太腿の後面の筋群の牽引により骨端が剥がされた状態になり骨折しています。成人では肉離れが好発する部位です。
座骨結節は大腿後面の筋群(ハムストリングス:半腱様筋と大腿2頭筋)が付着する骨起始です。
高校1年生女子バドミントン選手です。ランジをした際におしりの付け根が痛くなったと訴えてきました。肉離れのようにも思いましたが年齢を考慮し骨折を疑いレントゲンをオーダーしました。
◆下前腸骨棘の裂離骨折
●上記のエコー像は、左が患側、右が健側です。一見右の映像の方が骨の不整列があるように思われますが、成長軟骨の映り具合がアーチファクトとなりバラバラになっているように見えます。
●左の映像が縦に線が明瞭に確認できるのが骨折線です。
AIIS(下前腸骨棘)は、大腿直筋が付着する骨起始です。
中学2年生の男子サッカー選手です。相手選手と交錯し左足を後方へ取られたそうです。
股関節が痛むと来院されましたが。股関節の内外旋障害はなく。自動SLRで痛みが誘発しました。
圧痛がAIIS(下前踵骨棘)に限局していたので、筋腱移行部の損傷か裂離骨折を疑いエコーを施行しました。
●示しているのがAIISです。 ●エコーでAIISを長軸方向に撮影しました。
●受傷後1か月のエコー画像です。骨折部にリモデリングによる仮骨形成が確認できます。
若年型の骨折
◆Colles骨折と橈骨遠位端骨端線離開
ジュニア期の骨折の特徴は、骨が柔らかいために完全にポキッと折れないで若木骨折になるケースと、骨には傷がなく成長線が離解するように折れるケースがあります。
●橈骨遠位端骨端線離解です。成人ではコーレス骨折と呼ばれます。
●左図:画面左の骨の先端がやや下に脱落しています。この骨と長い骨の間に見える黒い隙間が成長線(軟骨)になります。
●成人のコーレス骨折です。完全に折れている様子がわかります。
この様に小児の骨折は外観では大きな変形がなく、治癒期間も早期(成人の半分)なために軽く考えがちですが成長線の損傷(骨折)は、後の成長障害の原因になりますので慎重に対応すべきです。
◆尺骨脱臼骨折と成長軟骨に及んだ骨折
同様に成長軟骨を横断しながら折れるSalter-Harrisの分類にも注意が必要です。
●12歳女子体操選手の肘関節後方脱臼骨折のレントゲン像です。
●バーより落下し左手をついて受傷。
●左図:健側の肘関節レントゲン正面像です。
●右図:整復後の患側のレントゲン正面像です。外側上顆から成長軟骨を縦断するように走る骨折線が確認できます。
成長軟骨を縦断または、横断する形での成長期前特有の骨折をSalter-Harrisと呼び、他の骨折とは区別して考えます。
将来、骨の成長障害の原因になるため、整復や固定は伸長を期します。これらの骨折の疑いがある場合は、必ず医療機関にて処置をしていただいております。