【症例の紹介】
バドミントン選手が、ラケットを持たない方の手に痺れを訴えてくることがあります。
特に、女子選手が前腕(肘関節より遠位)の外側(親指側)に症状を訴えてきます。
もちろん神経症状が出現した場合、脳・脊髄の中枢神経や頸椎椎間板ヘルニアなど深刻な疾患がないかを鑑別する必要があります。これらを鑑別するには、現場で行うことができる検査方法(Barre's sign, Jackson testなど)もありますが、やはりMRIなどの画像による判断が確実です。
画像診断で重篤な疾患がないと判断され、前腕に神経症状があるケースについて書いていきます。
バドミントンで前方向のシャトルをボレーする際、男子選手と女子選手では非利き腕の使い方に大きな違いがあります。
●男子選手は左手(非利き腕)を使わず、前のシャトルをボレーする。
●女子選手は、左手(非利き腕)でバランスをとりながら、前のシャトルをボレーすることが多い。
上記の写真は、実業団男子選手と高校生女子選手にフォア前のボレー姿勢を模式的にとってもらったものです。
男子選手は、上肢の筋力が発達しているためか、全身を使ってボレーをせず、女子選手と比べると簡略化したような姿勢で補球しています。
その際、特に、左手(非利き腕)の使い方に違いが出てきます。男子選手は、腕を体側につけたような姿勢で利き腕だけで補球し、女子選手は後方に腕を伸ばし体全体を使って補球をします。
腕や背中に分布している神経は中・下位の頸椎から出ている腕神経叢です。頸椎から鎖骨下を通り肩口から背や胸、腕の前や後ろに延びてきます。また、それぞれの神経は、すべて支配領域が決まっています。
そのため選手が症状を訴える領域でどの神経に問題が発生しているのかを予測できることができます。
今回のケースでは前腕の外側に症状が出現しましたので、筋皮神経に問題が発生していると予想できます。
●筋皮神経の皮膚支配領域は前腕の外側になり指は含まれないです。
●筋皮神経の筋枝は上腕2頭筋の運動に作用し、皮枝は前腕外側の皮膚感覚を支配します。
筋皮神経が筋によって絞扼される姿勢は、肩関節の伸展動作(腕を後ろに伸ばした姿勢、肘関節の屈曲か伸展かはあまり問題になりません)です。
この動作に頸部の反対側への回旋が加わると神経がさらに伸展され症状を悪化させます。
これらの姿勢・動作はまさに女子選手がフォア前のシャトルの捕球動作と合致します。
予防対策としては、こういった動作をしない様にすることです。また、ランジ動作を行う際に寛骨(骨盤の骨)に対して大腿骨が開くように心掛けることが大切です。詳しい説明は、FAI(股関節の痛み)の項で説明したいと思います。