【症例の紹介】
肉離れは、関節運動による筋の伸展と自動運動による筋の収縮にラグ(ズレ)が生じ筋や筋膜が裂けるように傷ついた状態です。
肉離れの生じる部位による様々なタイプがあります。
①筋膜が裂けるように傷つくタイプ
②筋内腱と筋線維が裂けるように傷つくタイプ
③腱から筋への移行部が裂けるように傷つくタイプ
などが代表的なタイプです。
筋挫傷は介達外力による外傷なので、どの筋のどの部位に好発するかがは定型的です。
大腿前面の筋群は主に股関節の屈曲(大腿を前に持ち上げる)と膝関節の伸展(膝を伸ばす)に作用します。
筋は、一つの関節をまたいでそれぞれの骨に付着する単関節筋と二つ以上の関節をまたいでいる多関節筋に分類されます。
大腿前面の主な筋では、大腿四頭筋がありその名の通り4つの筋頭を持っています。
①大腿直筋、②内側広筋、③中間広筋、④外側広筋がそれで、①大腿直筋だけが股関節と膝関節をまたぐ多関節筋で、それ以外の3筋は膝関節のみをまたぐ単関節筋です。
また、縫工筋は多関節筋に分類されます。
●大腿四頭筋の分類
●縫工筋(青色で図示)
ランニングやランジなどの動作で好発するこのケガは、股関節が屈曲位で近位(心臓に近い方)の筋が収縮しているにも関わらず膝関節は屈曲位で遠位(心臓に遠い方)の筋は伸展しており、一つの筋ないで近位の筋線維(股関節の付近)と遠位の筋線維(膝関節付近)に収縮と伸展のラグが発生し受傷機転となります。
●同一の筋内で収縮と伸展という相反する働きが起きる。
①筋膜が裂けるように傷つくタイプ
高校女子バドミントン選手です。前方向にシャトルを追いかけてランジ動作を踏ん張った際に受傷しました。
画像はありませんが、大腿外側の前面に皮下出血が確認され、圧痛、動作痛が著明でした。
エコー画像では、外側広筋と直筋との間の筋膜に血腫がありました。
●左図:短軸像 筋膜の間に黒く低輝度に見える出血が確認できます。
●右図:長軸像 同様に筋膜間に黒く出血が確認できます。
●およそ1か月で血腫が消失しました。
②筋内腱と筋線維が裂けるように傷つくタイプ
高校男子サッカー選手です。ダッシュ練習を行っている最中に徐々に大腿の外側に痛みが発生し、その後強くボールを蹴った際に歩けないほどの激痛が出現しました。
●左大腿外側に局所的な膨隆が確認できます。皮下出血はなく圧痛と動作痛が著明でした。
●左図:短軸像 筋の中には無数の小さな腱が存在します(筋内腱)。エコーでは、筋内腱と筋の間に、黒く低輝度の出血が確認できます。
●右図:長軸像 短軸像と同様に筋内に黒く出血が確認できます。
当選手は、試合期のために完全に休養をとることができずテーピングによる圧迫でプレーを続けました。
2か月の間、軽微な再発を繰り返しながらもどうにか試合にも出場しました。現在は、完治しています。
③腱から筋への移行部が裂けるように傷つくタイプ高校生女子バドミントン選手です。サイドへのランジで股関節の付け根が痛くなったと訴えてきました。
下前腸骨棘(AIIS)に限局した痛みがあり、仰向けの状態での股関節屈曲動作(SLR)が痛みの為に不可能でした。
裂離骨折との鑑別のためにエコー画像を取りました。
骨折はなく、筋挫傷による出血を疑う画像が確認できました。
●左図:短軸像 大腿直筋の腱から筋への移行部に限局した低輝度なエコー像があり出血が疑われました。
●右図:長軸像 同様に黒く見える部位に出血が疑われました。
3週間程度のアスリハプログラムで、競技復帰を果たしました。ランジ動作の改善を促しました。詳しくは股関節節の痛み(FAI)のページで詳しく書きます。
テーピングの方法はテーピングの項で紹介しています。