【症例の紹介】
ふくらはぎは、下腿三頭筋とよばれ3つの筋から構成されます。1つはヒラメ筋、残り2つが腓腹筋内側頭と外側頭です。ヒラメ筋はカカトの骨からアキレス腱を介し膝関節をまたがずに脛骨・腓骨の後面に着いています。腓腹筋は同様にアキレス腱を介し膝関節をまたぎ大腿骨後面に着いています。
膝関節を曲げた状態での足関節底屈をヒラメ筋が、膝関節を伸ばした状態での足関節底屈を腓腹筋が主に担っています。
●右脚を後ろから見た図です
ふくらはぎの肉離れは、足関節背屈位で筋が伸ばされている状態で筋が急速に縮もうとした時に筋と筋膜が引き剥がされるように受傷します。
また、筋が収縮していている状態からさらに収縮して過収縮状態になった際に筋内腱が剥がされるように受傷します。
臨床経験上では、その発生機序が引っ張られて受傷する伸長型(私が勝手にそう呼んでいます)と、過収縮をして受傷する収縮型(私が勝手にそう呼んでいます)に分類できるように思います。
伸長型は腓腹筋内側頭と外側頭の間にある矢状腱板やその下のヒラメ筋膜との間に好発しているように思います。また、収縮型は外側頭の近位(膝窩部)に多く発症している印象です。
●図左(健側):腓腹筋が三角形の頂点を右にさしながら確認できます。
●図右(患側):三角形の頂点が歪み、筋膜が剥がされている様子が確認できます。
選手の声として、「最初筋肉痛と思ったが段々と痛くなってきた」や「筋肉痛が肉離れに変わった」などと聞きます。Ⅰ度損傷の肉離れは、張りや軽い痛みを感じることが多く、肉離れと勘違いされることが良くあります。3日以上痛みや張りが持続する時は、肉離れなどの損傷に注意しながら対処にあたります。
軽度の肉離れの処置方法は、2日程度は非荷重で安静にし、患部にテーピングやバンデージで圧迫をします。その後は、超音波を照射し過剰な肉芽細胞の増殖を抑え筋が瘢痕化する(硬くなる)のを防止します。また、徐々に筋に長軸方向への柔軟性を取り戻すためのストレッチングを開始します。
●図左:下腿三頭筋のストレッチング。膝を伸ばして行います。
●図右:ヒラメ筋のストレッチング。膝を曲げて行います。
ふくらはぎの柔軟性が回復し、足首の背屈可動域が獲得されてからは、筋トレを開始します。非荷重から始め荷重を徐々にかけていきます。そして、歩行→軽いジョグ→ラン→専門的動作へと段階的に強度を上げていきます。
受傷直後は、RICESを中心に処置にあたりますが4日目以降は、積極的に患部に超音波をあて肉芽細胞の過形成を抑制し、ストレッチングにより正しい線維パターンの再形成を促します。
肉離れは、数日から数週間で自然と痛みが消失します。しかし、鎮痛後の加療をしない場合は筋が線維化(硬くなる)してしまったり、線維パターンが乱れた状態で再生してしまう事が多いです。また、筋委縮(筋が痩せてします)をおこす場合もあり、その後の競技に悪影響を残します。
重要な事は、痛みがなくなれば治ったと思うのではなく、その後のケアをしなければ痛みが引いていても再発するリスクがとても高いということです。
●図左:再発を繰り返している左下腿三頭筋です。筋が萎縮しています。
●図右:萎縮した筋のエコー画像です。線維パターンが消失しています。
*下腿三頭筋の予防的テーピングの方法は、「テーピングについて」の項で紹介しています。