【症例の紹介】
アキレス腱は、人体最大の腱で下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)から始まり踵骨(かかとの骨)で終わっています。足先を下に向けるように足関節に作用します。
アキレス腱そのものが炎症を起こすケガをアキレス腱炎と呼びます。アキレス腱炎と似たケガには、
①アキレス腱が切れてしまう「アキレス腱断裂」
②アキレス腱の周りにある脂肪体や滑液包が炎症を起こす「アキレス腱周囲炎」
③アキレス腱と皮膚の間にある滑液包が腫れてしまう「Pump Bump」
④足首の骨(距骨)に過剰骨が存在する「三角骨障害」
などがあります。
それぞれのケガには特徴があり、ケガを判断する際にしっかりと鑑別する事が大切です。
アキレス腱断裂
アキレス腱断裂は、叩打感を伴い(後ろから叩かれた様な感じ)断裂します。大概、アキレス腱が切れた瞬間に選手は後ろを振り返る様に倒れます。
患部には陥凹があり、時間の経過につれ皮下に出血斑が出現します。
一般的にThompson testが陽性になりますが、完全に断裂していない場合や足底筋(下腿三頭筋に平行する細い筋)の影響によりtestが陰性になったり、歩行が可能な場合もあり注意が必要です。
●Thompson test ふくらはぎを掴むと、患側(左)では足首が動かないですが、健側(右)では足首が動きます。図では腹臥位・膝関節屈曲位で行っていますが膝関節伸展位で行うこともあります。
バドミントンでは他競技と比べアキレス腱断裂の発生頻度は高いと思います。また、私が経験した症例での男女比は、女子の方が多かったです。
アキレス腱炎
アキレス腱周囲炎は、アキレス腱の踵骨付近やアキレス腱そのものよりも深い場所に痛みを訴えます。滑液包や脂肪体の炎症と考えられています。足関節を強制的に底屈位にしたり自動運動での底屈で痛みが増します。また、アキレス腱付着部症(enthesis)では触れただけでも鋭い痛みを訴えます。パットで患部に靴が触れない様にしたり工夫します。
●アキレス腱と骨や皮膚の間には滑空をよくするためにいくつもの滑液包が存在します。また、アキレス腱と脛骨の後面の間には、隙間を埋めるように脂肪体があります。
Pump Bump
Pump Bumpは滑液包が腫れた状態で、痛みを伴う事もありますが慢性化すると腫れているけれど痛くない選手もいます。町中でハイヒールを履いている女性の踵にもよく確認できます。
●Pump Bump 写真は80歳代の女性です。痛みは全くないそうです。
●Pump Bumpの新鮮例 高校1年生で学校指定の革靴を履いて、約1か月後に発症。
●靴などの用具を変えて数週間後に痛くなるケースが多く、新鮮 症状はとても痛みます。
*対処方法は、テーピングの項目で紹介しています。
三角骨障害
三角骨障害は足関節を構成している距骨の後方(距骨外側突起)が大きかったり、多かったり(過剰骨)しその骨が陥頓(挟まること)し炎症を起こします。エコーでは確認できませんがレントゲンでははっきりとわかります。
足関節の底屈動作がとても重要な競技(競泳、シンクロ、器械体操、バレエなど)の選手は、手術で切除する事を前提で施術にあたります。そうでない競技の選手は痛みをモニターしながらできるだけ保存療法(手術しない)で対処していきます。
●模型ではわかりにくいですが三角骨障害になる突起部はやや外側にあります。
●圧痛はアキレス腱の外側深部に限局してあります。
●大学3年生男子バドミントン選手の足部のレントゲン写真です。過剰骨である三角骨は、大抵は左右両側に存在します。また、痛みがない場合もあります。
アキレス腱炎の予防方法
一般的に腱の炎症を引き起こす原因として擦れる(friction),伸ばされる(stretching),挟まる・衝突する(impingement)が主です。
アキレス腱炎の発症原因は、「伸ばされる(stretching)」がもっとも多いのではないでしょうか。
アキレス腱は下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)の力を踵骨に伝える組織なので、下腿三頭筋に硬さが出ると腱が伸長され炎症の原因になります。
また、バドミントンではアキレス腱の内側に痛みを訴えるケースが多く、アライメントに問題のある選手は、サイドへの蹴り出した足が回内してしまい内側が特に伸長されてしまうのではないでしょうか。
●図左:高校3年生女子バドミントン選手です。アキレス腱がびまん状に(もわーと)腫れているのが確認できます。
●図中央:エコー画像です。この選手は、両方のアキレス腱に炎症が見られますが、右(画面では左)のアキレス腱が特に肥厚化しており、上半分に低エコー画像が確認できました。腱炎の画像は、アキレス腱に限らず膝蓋腱でもこの様に2層構造にうつります。
●図右:蹴り出しの際に左足が回内し倒れてしまっている悪い例。
対処方法は、練習後のアイシング、超音波の照射、下腿三頭筋のストレッチング2種類、また、ヒールカップなどの装具を使用しアキレス腱への伸長ストレスを緩和します。
●図左:ヒラメ筋のストレッチング、図右:腓腹筋のストレッチング
●図左:衝撃吸収用のヒールカップ、図右:補高用のヒールウエッジです。どちらか選手が使用しやすい方をすすめます。
また、医学的には、アキレス腱炎がアキレス腱断裂の原因にはならないというのが定説です。しかし、腱炎も断裂もアキレス腱の硬さが発症原因の一つなので、腱炎を起こしている選手は断裂のリスクもあるという事を念頭に置いて対処しなければいけないと思います。